■殺戮の嵐の中で出会った一組の男女!
怒涛!怒涛!怒涛!映画『Gadar: Ek Prem Katha』は始まりから終わりまでなにもかもが怒涛の連続で描かれるインド映画なんだッ!物語はインド・パキスタン分断の大混乱とそこから生まれた大虐殺の様子から始まる!1947年、イギリス領インド帝国が解体し、インド連邦とパキスタンの二国に分離独立したのだが、それはヒンドゥー教徒とイスラム教徒の対立から生まれた分断だった。そしてヒンドゥー教徒はインドへ、イスラム教徒はパキスタンへと半ば強制的な移動・流入をさせられたのだが、この時、両教徒間で激しい暴動と虐殺の嵐が吹き荒れたのだ。映画の冒頭で描かれるこの虐殺シーンがまず凄まじい。逃げるようにパキスタンへの列車に乗るイスラム教徒たちをヒンドゥー教徒たちが次々となぶり殺しにする!同様にインドへの列車に乗るヒンドゥー教徒たちをイスラム教徒たちが皆殺しにしてゆく!ようやく執着駅にたどり着いた列車の中は血まみれの死体が山のように折り重なり、生きているものは一人もいなかった・・・。こんな、もう殆どホラー映画のようなシーンからこの映画は始まるのですよッ!?
しかーし!そんな地獄のような光景の中、独立インド側にいたあるシク教徒の男が、逃げ遅れた一人のムスリム女性を助けるのですよ…。男の名はタラ・シン(サニー・デーオール)、女の名はサキーナ(アミーシャ・パテル)。憎しみだけが渦巻くこの地で、なぜタラ・シンはサキーナを助けたのか?分離独立前、タラ・シンはしがないトラック野郎でした。彼はあるきっかけで音楽学校に通う貴族の子女、サキーナと知り合い、彼女にほのかな想いを抱いていたのです。そしてこの虐殺の中、運命の不思議といいましょうか、タラ・シンは偶然にもサキーナを助けることになってしまうんですよ。けれど、周囲は「テメー!ムスリムの女かくまってるって噂だぞ!」とタラ・シンの家に詰め掛けます。その時タラ・シンはどうしたか?なんと『ダバング 大胆不敵』もかくやと思わせる大格闘で周囲をこてんぱんにやっつけちゃうんですよ!「あれ…印パ独立の悲劇を扱ったシリアスドラマだと思ってたけど…なにこの大アクション?」観ていたオレ、まずここでお口ポカーン状態です。しかーし!唖然とさせられる展開はこれで終わりではなかったッ!?
■ひたすらエモーショナルな作品!
その後も物語は怒涛の展開続きです。タラ・シンの父親もムスリム女性をかくまう事に猛反対、「わしらの同胞を殺した連中の女など!」とブチ切れますが、タラ・シンも「だったらこんな家出てってやる!」と逆切れ気味に返します。そんな息子にオロオロして父は結局息子を許し、「父さん!」「息子よ!」と涙ながらに抱擁しあいます。サキーナはサキーナで己の運命に悲嘆しまくり、いつでもどこでもシクシク泣いてるんです。しかしいつまでもかくまっていることもできず、タラ・シンはサキーナをムスリムの難民キャンプに送り届けることになってしまいます。しかーし!サキーナはタラ・シンに、「私…あなたと一緒にいたいの!」と遂にタラ・シンへの愛を告白するんです!くうう!泣かせるじゃありませんか!!そして灼熱の太陽のように燃え上がる恋!歌と踊り!そして結婚、出産、幸福な家庭!ああよかったよかった!このまま幸せでいてくれお二人さん!と観ているオレはもうずっぽり感情移入しまくりです!まあ実際この辺の流れはメロドラマ展開そのままなんですが、物語に奔出する感情のうねりにすっかり飲み込まれてしまうんです。
そう、この物語、怒り、憎しみ、悲しみ、喜びといった感情の波が凄まじいまでにほとばしり、怒涛の如き展開をしまくる、どこまでもひたすらエモーショナルな作品なんですよ。こういった物語だと普通は鬱陶しく感じてしまうオレなのですが、しかし描かれ方がドロドロと鬱積したものではなく、むしろ単純なぐらいにスカッ!と描かれているので、気持ちよく観ていられるんです。これは登場人物たちのキャラクター造形が素直で一本気、特に主人公は裏表の無いピュアなハートの持ち主として登場する為、その朴訥なまでの性格に心惹かれてしまうせいもあるでしょう。そして物語に通底する徹底的にエモーショナルな描写は、「そうだ、オレはこんなインド映画が観たかったんだ!こんなエモーショナルなものをインド映画に求めてたんだ!」としみじみと思い出させてくれたんですよ。こういった感情過多な物語であるためこの作品は通俗的なぐらいベタに仕上がっており、抑制され洗練された一級作品では決してないにしろ、逆にその猥雑さがとことん旨みを醸し出しているんですね。あーインド映画観てるよー!って気にさせるんですよ。
■なんなのこのとんでもない超展開!?
しかーし!二人の幸福はいつまでも続かなかったのです。
《ここからクライマックスまで説明してしまうのでご注意ください》
サキーナは死んだと思っていた家族がパキスタンで暮らしていたことを知り、タラ・シン、息子と一緒に会いに行こう!と持ちかけますが、実力者となっていたサキーナの父はインド人憎しで頭が凝り固まっており、サキーナだけをパキスタンに連れ戻し、タラ・シンと息子は決してパキスタンに入ることを許さなかったのです。「どうしてだ!どうして嫁に会う事ができないんだ!」怒り心頭のタラ・シンは息子を連れ、パキスタンへの密航を企てます!しかしサキーナは既に親によって無理矢理他の男と結婚させられようとしていたのです!その結婚式に間に合い殴りこみをかけるタラ・シン!またしても『ダバング』状態の大格闘!サキーナの父は一旦タラ・シンを許し、「ムスリムに改宗するなら娘との結婚を許そう」と持ちかけます。そして結婚式、サキーナの父はタラ・シンに「パキスタン最高!インドはクソ!と言ってみろ!」とタラ・シンに無理強いします!ここでタラ・シン大爆発!遂に嫁を連れパキスタンからの大脱出行!警察相手に凄まじいカーチェイス!その後列車に飛び乗りますが、そこを今度はパキスタン軍が急襲!わらわらと迫りくるパキスタン兵!飛び交う銃弾!ライフルを奪って応戦するタラ・シンと嫁のサキーナ!
・・・なーんじゃこの『ランボー』展開!?とんでもねえよこの映画!?
いやーとことん怒涛の展開でした!よくこんなもん作ったなあ!パキスタン完全に悪じゃないかよ!ってかパキスタン人殺しすぎだよ!!いーのかこれ!?…とは思いましたがこれでいいんです!だって全ては愛のため、そして家族のため!ムチャクチャといえばムチャクチャなんですが、このムチャクチャさがむしろ小気味いい!怖いもの観たさのインド映画ファン、そしてインド映画興味ないけどB級映画でメシ3杯食えるB級映画ファンの方にぜひお薦めしたい傑作でありました!