北欧ミステリ『許されざる者』を読んだ

許されざる者 / レイフ・GW・ペーション (著), 久山 葉子 (翻訳)

許されざる者 (創元推理文庫)

国家犯罪捜査局の元凄腕長官ヨハンソン。脳梗塞で倒れ、命は助かったものの麻痺が残る。そんな彼に主治医が相談をもちかけた。牧師だった父が、懺悔で25年前の未解決事件の犯人について聞いていたというのだ。9歳の少女が暴行の上殺害された事件。だが、事件は時効になっていた。ラーシュは相棒だった元刑事らを手足に、事件を調べ直す。スウェーデンミステリの重鎮による、CWA賞インターナショナルダガー、ガラスの鍵賞等五冠に輝く究極の警察小説。

スウェーデンのミステリ作家、レイフ・GW・ペーションの『許されざる者』は脳梗塞で倒れた元国家犯罪局長官が時効の成立した幼女暴行殺人事件を再捜査する、という物語だ。

主人公ラーシュ・マッティン・ヨハンソンは現役時代「通りの向こうまで見通す」とまで言われた凄腕の捜査官だった。定年退職後悠々自適に過ごしていた筈のヨハンソンだったが、突然の脳梗塞に襲われ、半身の麻痺が残ってしまう。そんなヨハンソンにある日、25年前に発生し既に時効の成立してしまった事件の真相を暴いてほしいという相談が持ち掛けられた。その事件とは9歳の少女の暴行殺人事件だった。ヨハンソンは後遺症に悩まされながらも、鋭利な頭脳と長官時代に培った強力なコネと人間関係を駆使し、次々と新事実を洗い出してゆく。

許されざる者』の読みどころとなるポイントは3つ。1つ目は主人公ヨハンソンが脳梗塞の後遺症で体を動かすことがままならず、ある種の「アームチェアディティクティブ小説」として物語が進行してゆくこと。後遺症は次第に回復してゆくが、基本的にはヨハンソンの協力者たちが手となり足となり、そのチームワークでもって事件を捜査してゆくことになる。

2つ目はこれが時効の成立してしまった事件であること。即ち犯人を突き止めたとしても立件することはできず、では真犯人が判明した時その犯人をどうするのか?ということ。ヨハンソンは決して「私刑」を望んでおらず、彼なりの犯人への落し所・落とし前を模索するのだ。

3つ目はヨハンソンのいかにも元司法組織の大物だった者らしい、尊大かつ豪放磊落、強力に男性的でどっしり安定感のある性格と、その強大な人望。ヨハンソンは大病を患っていることを意にも掛けず逡巡することもない。かつての同僚、部下、関係省庁の者たち、さらには近縁家族も含めてヨハンソンを尊敬し信頼して止まず、定年退職した人間なのにも関わらず積極的に事件の情報を与え協力してくれるのだ。要するに向かう所敵なしなのである。

陰惨な殺人事件や主人公の大病、時効成立事件の困難な処遇など、重いテーマを扱っているにもかかわらず、物語はストレートに軽快に語られてゆき(これは主人公の豪胆な性格が醸し出すユーモアに負うところが大きい)、500ページ超の大部な内容をすらすらと読ませる読み易さだ。

凄腕捜査官が快刀乱麻に事件を解決するだけの物語なら単純だし退屈になってしまうが、主人公が一応病人であるという部分で物語に陰影と豊かなドラマを付加することに成功している。病人のくせに行動力がある主人公(笑)の危なっかしさをハラハラしながら読み進める部分に面白さのある小説だ。そして「許されざる者」の最後の処遇がどうなるのか、興味を尽きさせず読ませることになるのだ。