殺人者の顔 /ヘニング・マンケル (著), 柳沢 由実子 (翻訳)
【CWAゴールドダガー受賞シリーズ/スウェーデン推理小説アカデミー最優秀賞受賞】 雪の予感がする早朝、動機不明の二重殺人が発生した。男は惨殺され、女も「外国の」と言い残して事切れる。片隅で暮らす老夫婦を、誰がかくも残虐に殺害したのか。燎原の火のように燃えひろがる外国人排斥運動の行方は? 人間味溢れる中年刑事ヴァランダー登場。スウェーデン警察小説に新たな歴史を刻む名シリーズの開幕!
ヘニング・マンセルはスウェーデンの作家(2015年没)。物語はスウェーデンの田舎町に住む老夫婦が何者かに残虐な方法で殺害されるところから始まる。主人公クルト・ヴァランダー刑事は捜査に乗り出すが、被害者が「外国の……」という言葉を最後に残したことが外部に漏れ、外国人排斥運動が巻き起こってしまう。
特筆すべき点は3つ。1つ目は主人公と仲間の警察官との密な捜査連携が巧みに描かれていること。これにより捜査の様子がリアルかつダイナミックに伝わってくる。さらに警察捜査がチームワークで成り立つものであることが明確にされている。主人公一人のスタンドプレーで事件が解決するといった内容ではなく、これは新鮮だった。捜査は時に暗礁に乗り上げるがテキパキと小気味よく描かれ、本作の醍醐味となっている。
2つ目はスウェーデンの在留外国人問題が浮き彫りにされていること。スウェーデンは人口の五分の一が移民ないし帰化人となっているのらしく、治安や就労といった面で執筆当時はこれが大きな問題となっていたのらしい。物語では被害者の言い残した言葉がミスリードをもたらすものなのかどうなのか判然としない部分で最後まで引っ張ってゆく。
3つ目は主人公の描かれ方。ヴァランダー刑事は警察官として非常に有能であるが私生活は乱れており、離婚や不摂生や父親の健康問題などでいつも思い悩む。さらに性格は短気でむらっ気が強く、始終問題を起こして自責の念に駆られている。主人公のこの性格は読んでいて最初うんざりさせられたが、物語全体に強いコントラストを与えていることが次第に理解できるようになってきた。
こういった、社会問題と主人公の葛藤、事件の残虐さをひっくるめつつ進行してゆく物語であるという点で、実に北欧ミステリらしい構成の作品だった。