女性初の英仏海峡水泳横断を果たした実在の水泳選手を描くDisney+映画『ヤング・ウーマン・アンド・シー』が素晴らしかった

ヤング・ウーマン・アンド・シー (Disney+映画)(監督:ヨアヒム・ローニング 2024年アメリカ映画)

オレはスター・ウォーズ新3部作が好きではないが、しかしただ1点、主人公レイを演じたデイジー・リドリーは、新人だったにも関わらず存在感のある素晴らしい演技を見せてくれていたと思っている。そのデイジー・リドリーが主演したDisney+配信映画『ヤング・ウーマン・アンド・シー』は、女性として初めて英仏海峡を泳いで渡ることに成功した実在の水泳選手トゥルーディ・イーダリーの半生を描いたドラマだ。そしてこれが、SWを超えたデイジー・リドリーの新たなる代表作だと言えるほど素晴らしかった。

物語は1905年、アメリカ・ニューヨークから始まる。ここで生まれ育ったトゥルーディ・イーダリーは年少時から優れた水泳の才能を見せていたが、当時はまだ「女性が泳ぐ」ということすら一般的ではなかった。家族の強い支えもあり1924年パリオリンピックに出場も果たすが、「女性である」というだけで影の薄い取り扱いだった。そして彼女は遂に「女性には不可能」と言われた英仏海峡水泳横断に挑戦する。監督は『マレフィセント2』『パイレーツ・オブ・カリビアン 最後の海賊』のヨアヒム・ローニング。

物語の大きなテーマとなるのは男性優位社会における女性蔑視と女性差別、そのような社会の中で決して圧殺されることなく自らの力を発揮したいと願う女性たちの思いである。映画で描かれるトゥルーディの扱いは実に惨いものだ。水着を着ればふしだらと言われ、オリンピックでは添え物扱いで練習すらさせてもらえず、英仏海峡横断を宣言すれば冷笑を持って迎え入れられ、海峡横断が始まると妨害行為まで為される始末なのだ。男は、女の優位を認めたくないのだ。しかしこれら醜悪な差別と無理解の只中に在ってもトゥルーディは決して負けない。決して諦めない。この強烈な意志の強さになにより感銘を受ける物語なのだ。

同時に、撮影が美しく、音楽の素晴らしい映画だった。水中撮影は迫真的であり、水の冷たさや沈溺の危険性がありありと迫って来る。トゥルーディを演じたデイジー・リドリーの凛とした表情と困難をものともしない毅然とした態度には強い共感を覚えさせる。トゥルーディを支える家族の愛と信頼の篤さも忘れてはいけない。娘を愛するが故に徹底的に応援する母親の頑固さ、娘を愛するあまりに水泳に否定的な父親の頑固さ、この頑固な親同士の対立もどこか微笑ましい。愚劣な男性社会にあってもトゥルーディに絶対の信を置き強烈にサポートし続ける男性たちの姿もまた頼もしい。

英仏海峡水泳横断と一言に言うが、これは直線距離を泳ぐのではなく、潮流の流れを考慮して大きくジグザグに泳がなければならない。これだけでも遊泳距離が増えてしまうのだ。さらにクラゲの大群の襲来、浅瀬による船舶サポートの不能、そして目印の無い夜間水泳の恐怖、ありとあらゆる困難がトゥルーディを襲う。それでも彼女は泳ぎ続けることを止めない。そして訪れる圧倒的なまでのラストに誰もが胸を締め付けられることだろう。Disney+の配信映画でここまで心揺さぶられるとは思わなかった。良作です。