■マニカルニカ ジャーンシーの女王 (監督:ラーダ・クリシュナ・ジャガルラームディ 2019年インド映画)
■憂国の王妃、マニカルニカ
大英帝国の植民地政策にあえぐ19世紀半ばのインドを舞台に、暴虐なる支配に反旗を翻し、国家のため国民のため自らが戦いの先陣を切った実在の人物、 マニカルニカ王妃の数奇な運命を描いた歴史大作がこの『マニカルニカ ジャーンシーの女王』です。
主人公となるマニカルニカ王妃/ラクシュミー・バーイーを名作『クイーン 旅立つ私のハネムーン(Queen)』のカンガナー・ラーナーウトが演じ、『ガッパル再び(Gabbar Is Back)』のラーダ・クリシュナ・ジャガルラームディが監督を務めます。また、一部のシーンはカンガナー・ラーナーウト自らが監督しています(クリシュナ監督の途中降板があった模様)。脚本は『バーフバリ』シリーズ、『バジュランギおじさんと小さな迷子』のK. V. ヴィジャエーンドラ・プラサード。
【物語】ヴァラナシで生を受けたマニカルニカは剣術、馬術に秀でた活発な女性だった。彼女はジャーンシー藩王国の王ガンガーダル・ラーオ(ジーシュ・セーングプタ)とめでたく婚姻を迎えるが、生まれたばかりの王子と藩王が相次いで亡くなるという悲劇に見舞われる。マニカルニカは自らが摂政となり国を治めることを誓うが、東インド会社は法律を盾にジャーンシー藩王国の接収に乗り出し、王国を暴力的に征服してしまう。かねてから東インド会社の暴政に辛酸を舐めていたマニカルニカは、インドとその人民のため、徹底抗戦に打って出ることになる。しかし狡猾なる大英帝国の走狗との戦いは、絶望的な殲滅戦へと雪崩れ込んでゆくのだった。
■熾烈極まりない戦闘とマニカルニカの崇高なる生
まず作品の見所となるのは、マニカルニカの率いる軍と大英帝国軍との壮絶な戦いの描写となるでしょう。膨大な兵士と物資に恵まれた大英帝国軍に対し、マニカルニカ軍は兵士も物資も乏しく、大英帝国に支配された周辺藩主国は援軍を差し伸べようともしません。この状況の中で国家存亡の悲願だけを頼りに、マニカルニカは様々な戦略に打って出るのです。戦いは攻城戦、騎馬戦、白兵戦と怒涛の如く描き尽くされ、夥しい死が画面を覆い尽くすこととなります。
もうひとつは国家と民を思うマニカルニカの崇高なる生の在り方でしょう。彼女は私人であることを既に捨て去り、ジャーンシー藩王国、さらにインドのため、身を挺して戦いへと赴くのです。彼女のこのどこまでも熱い願いが、物語をとてつもないテンションへと高めます。その戦いは凄惨を極め、あたかも鬼神が乗り移ったかのようにすら見えます。夫である藩王が死去し寡婦となった時彼女は、本来なら隠遁し喪に服すべきところを、それを覆して自らが摂政となると宣言しますが、そこにも彼女の尋常ならぬ決意と堅固な意思を感じることが出来ます。
そんな彼女の生き方からは、女であるから、女であろうとも、といったことを凌駕した、鮮烈なる生の在り方を観る者に提示することでしょう。このマニカルニカを演じるカンガナー・ラーナーウトの圧倒的な演技力と存在感、さらにその凛とした美しさは、この作品の最大の牽引力となっています。
■インド歴史作品としての『マニカルニカ』
さて映画作品として観るとどうでしょう。この物語はインド国民なら誰もが知るというマニカルニカ王妃/ラクシュミー・バーイーを描いたものとなりますが、そういった神格化された部分において、キャラクターの描かれ方そのものは紋切型で平板に感じる部分があります。この紋切型は物語の冒頭の描かれ方とその演出にも露呈し、なんだか古臭いインド映画を見せられているような印象は否めませんでした。
とはいえ、この作品はテーマの在り方からインドのあらゆる階層の鑑賞を前提に製作されていると思われ、そういった部分において徹底的な分かり易さを追及した結果なのではないかと想像できます。また、そういった紋切型の退屈さも、戦いが熾烈を極めだす中盤からは払拭されることになります。東インド会社/大英帝国軍の悪辣な描かれ方もやはり絵に描いたような紋切型ですが、敵役としてはこの程度で十分なのかもしれません。戦闘シーンのCGIは若干見劣りしますが、許容範囲内でしょう。
国家や王国、さらに自らの尊厳を賭け壮絶な戦いが繰り広げられるインド映画としては、最近では『パドマーワト 女神の誕生』、『KESARI/ケサリ 21人の勇者たち』など優れた歴史作品がありますが、この『マニカルニカ ジャーンシーの女王』はその流れを汲む歴史作品と言えるかもしれません。また、東インド会社の悪辣振りからは、古くは『ラガーン』、最近の作品では『Thugs of Hindostan』などを思い出させました。今年も多くのインド映画が日本で公開されるでしょうが、『マニカルニカ ジャーンシーの女王』もまた是非観ておくべきインド映画のひとつでしょう。
■本文内で言及したインド映画一覧
■日本版予告編