最近ダラ観したDVDとか配信とか

『ザリガニの鳴くところ』

ザリガニの鳴くところ (監督:監督:オリビア・ニューマン 2022年アメリカ映画)

 ノースカロライナ州の湿地帯で青年の死体が見つかり、犯人として挙げられたのはその湿地帯に一人ぼっちで住む少女だった。全世界で1500万部売り上げたという同名ミステリ―作品の映画化作品。舞台となる米南部湿地帯の豊かで美しい情景、孤独な少女の悲しい生い立ちとその繊細な心情、そして緊迫感に満ちた裁判シーンなど、瑞々しい情感に溢れ、同時に心をかき乱される作品だった。完成度も高く、ミステリーである以前に孤独な青春の物語として観ることもできるだろう。

上辺の物語だけ拾ってゆくなら平凡に思えなくもないが、その深層には多くのテーマが内包されている。主人公カイアは「有害な男らしさを行使する父親」のせいで家庭を破壊され、その後「有害な男らしさを行使する恋人」によって事件に巻き込まれてしまうが、そういった男たちから女性が自立して生きることの困難さがまず一つのテーマなのだろう。しかし街の住人たちはまだ年端もいかぬ彼女を「湿地の娘」と侮蔑的に呼び、その様は黒人へ向ける視線以下だった。白人社会の持つこういった高慢さ、冷淡な階級意識をえぐり出そうとしたのももう一つのテーマとなるだろう。

そして根本にあるのは一人の女性が、そういった逆境の中にありながらもあくまで自立して生きようとするその意志を描く部分だ。カイアは孤児院収容を頑なに拒み、あえて困難な湿地帯での生活を選ぶ。それは家族の思い出の場所であると同時に、その大自然を愛しきっていたからなのだ。彼女は目の前に広がる美しい自然に抱かれ、何者にも邪魔されず、一人で、あるいは愛する人と共に生きて行こうとする。そんな彼女の確固たる生き方に強烈な憧れを覚えさせ、強い訴求力を感じさせるのだ。派手さはないがしっとりとした良作である。ところでザリガニって、鳴くんだ?

バビロン (監督:デイミアン・チャゼル 2022年アメリが映画)

オレはデイミアン・チャゼル監督作がなにしろ嫌いで、『セッション』は観る気の起きない内容だし『ラ・ラ・ランド』はミュージカル映画監督ワナビーが作ったような愚作だし『ファースト・マン』は国家規模の計画をおっさんのメソメソした心象に矮小化した駄作だと思っている。そんなチャゼルの新作『バビロン』、まるで期待していなかったがブラッド・ピットマーゴット・ロビーの姿を眺めるためだけに鑑賞してみた。お話はなにしろ「ハリウッドは悪徳の街バビロンさ!」という内容で、一人のハリウッドスターと映画界に憧れる二人の男女の栄枯盛衰を描いたものとなっている。

で、実はこれが中盤までは結構面白い。チャゼル監督作で面白いと思わされるなんてびっくりした。フェリーニを思わせる喧騒と頽廃のパーティーシーンは言うに及ばず、ひたすら混乱を極める撮影現場のドタバタはシニカルでナンセンス、なにもかもが常軌を逸していて混沌としている。この混沌こそが映画を取り巻く当時の熱気なのだろう。

しかし物語が主役3人にフォーカスを合わせ出した辺りからテンポは失速、『ラ・ラ・ランド』の二番煎じみたいな人間ドラマは監督の手駒の貧弱さを感じさせ、音楽シーンは「俺って分かってるっしょ?」と言わんばかりのこれ見よがしなひけらかしっぷりに白けさせられ、ラストの取ってつけたような「映画愛」ゴリ押しモンタージュは素人臭くて辟易した。チャゼルってとことんワナビー根性の抜けない奴だよな。あとチャゼルって、これまでの作品もそうだったけど登場人物に愛情がないんだよ。ただやはりブラッド・ピットマーゴット・ロビーはなかなかの存在感をアピールしていて、特にマーゴット・ロビーの演技の幅の広さには感心させられた。

Zola ゾラ (監督:ジャニクザ・ブラボー 2021年アメリカ映画)

ウェイトレスでストリッパーの主人公ゾラが、ステファニという女性から「旅しながらダンスでお金稼がない?」と誘われ出掛けてみたら、いかにもワルなポンビキが現れ売春を強要されて大ピンチ!?という映画。実際の女性ゾラのよるツイートと、それを基にしたローリングストーン誌の記事を映画化したもの。

たとえ相手がストリッパーとはいえ、”ウリ”を強制するのは大犯罪、これはそんなセックス産業絡みのダークでエゲツない話なのか!?と思ったらさにあらず、明るいという訳ではないが決して暗く描かれるわけでもない、黒人女性ゾラの「危機一髪!」な48時間をスリリングに、しかも乾いた調子で描いている部分で面白く風変わりな作品だった。それもひとえに主人公ゾラのタフな根性と常に機転を利かせた行動の賜物で、そこに常にゾラのうんざりしきったツイートが差し挟まれるものだから、映画全体に奇妙なユーモアが持ち込まれるのだ。もちろんこれは笑って済まされる話ではないが、危険な犯罪劇にユーモアが加味される分にタランティーノ的なテイストを感じた。陰惨に傾くかもしれない物語を切り口一つでスマートな映画として完成させた手腕に注目すべき佳作だろう。

長ぐつをはいたネコと9つの命 (監督:ジョエル・クロフォード 2022年アメリオか映画)

ドリームワークス映画『シュレック』に登場する猫キャラクターを主人公とした映画『長ぐつをはいたネコ』の10年振りとなる続編作品。主人公はマントと長靴を履き、剣を手にして様々な冒険を経験してきた賞金首ネコ、プス。そんな彼が9つある命のストックを無くしてしまい、なんでも願いを叶えるという「願い星」を求めて異世界を旅することとなる、というファンタジードラマだ。

いけすかない旅の仲間たち、「願い星」を狙う熊家族と魔法を駆使するサイコパスデブ、そしてプスを亡き者にせんと迫る最恐の賞金稼ぎなど、登場するキャラクターは皆個性派揃い。そんな彼らのドタバタや熾烈な戦闘は実に楽しく興奮に満ち、危険な異世界の旅は驚異と不思議に溢れ、とても素晴らしい作品に仕上がっていた。様々な御伽噺の小ネタを散りばめたくすぐりも楽しく、なにより「本当に自分が願っているのは何か」を気付かさせるクライマックスの展開は感動的で、大人でも十分に楽しめる作品だったと思う。