カムバック・トゥ・ハリウッド!! (監督:ジョージ・ギャロ 2020年アメリカ映画)
1970年代のハリウッドを舞台に、金に困った映画プロデューサーが老いぼれ俳優に保険金を掛け、映画撮影中に殺しちゃおう!と画策するというブラックなコメディ映画です。そしてこの作品、なにしろ配役が豪華!ロバート・デ・ニーロ、トミー・リー・ジョーンズ、モーガン・フリーマンとオスカー俳優たちが顔をそろえ演技の火花を散らしているんですね。監督はデ・ニーロ主演のコメディ作品『ミッドナイト・ラン』で脚本を手がけたこともあるジョージ・ギャロの監督初作品。
1970年代のハリウッド。B級映画プロデューサーのマックスは、ギャングのレジーからの借金返済に頭を悩ませていた。そんなマックスが苦し紛れに思いついたのが、危険なスタント撮影での死亡事故で保険金を手にするというとんでもないトリックだった。マックスは往年のスターであるデュークを老人ホームから担ぎ出し、西部劇の撮影をスタートさせる。撮影の本当の目的は映画を絶対に完成させずに、撮影中にデュークに死んでもらうこと。しかし、マックスの目論見ははずれ、デュークが思いのほかしぶとかったために撮影は順調に進んでしまう。
映画の都ハリウッドを舞台にした映画は多々ありますが、最近ではやはりタランティーノ監督作品『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』がお馴染みでしょう。夢と欲望、虚飾と悪徳が、あたかも光と影のように強烈なコントラストをなす現代のバビロン・ハリウッドは、それだけで多くの物語を生む下地となっているのでしょう。
物語は、そんな虚飾の街で零細映画製作会社を経営する男マックス(ロバート・デ・ニーロ)と、製作資金を貸し出すギャングのレジー(モーガン・フリーマン)が登場し、ハリウッドの裏側でセコくミミっちく生きる男たちの胡散臭さを大いに見せつけます。マックスとレジーに目をつけられたのが今やすっかり落ちぶれ名前も忘れられた老西部劇俳優のデューク(トミー・リー・ジョーンズ)。失意の中で再び映画主演の栄光を掴んだ彼ですが、保険金殺人のターゲットにされていることはもちろん知りません。こうしてまさしく「ハリウッドの光と影」の中で、映画製作は始まってしまうんです!
なにしろこの3大俳優が並び立ち、それぞれが大いに怪しい演技を見せつけてくれる部分で楽しめる作品です。同時にこの3人、デ・ニーロが77歳、モーガン・フリーマンが84歳、トミー・リー・ジョーンズが74歳、3人合計235歳、皴の数を合わせたら3千本という(?)、ジジイ揃いの配役!!この爺様たちが顔つき合わせて怪気炎を吐くものですから、その恐るべきシルバーパワーの奔流に観ていてタジタジとなること必至です!即ちこの作品、「ジジイ映画」としても楽しめるということですな!
とはいえジジイだけに任せておくわけにはいきません。海千山千の映画プロデューサー役にザック・ブラフ、マックスの甥っ子役にエミール・ハーシュ、マックスの陰謀が蠢く映画監督に抜擢された女性監督役にケイト・カッツマンと、中堅俳優たちがジジイの暴走を食い止める介護役相手役として登場し、それぞれに素晴らしい存在感を見せてくれるんですね。他にも動物プロデューサーのおっさんとか、レジーのバカそうな子分とか、味のある演技を見せてくれる俳優が沢山登場して実に楽しませてくれるんですよ。
なにより可笑しいのは、これまで駄作愚作失敗作ばかり製作してきたマックスが、陰謀遂行の為に内容など何も気にせず製作した西部劇が、デュークの大活躍と新人女性監督の思い切りの良さにより、徐々に大傑作へと仕上がってゆくという皮肉です。この映画内映画、老ガンマンを演じるデュークが実に渋くて、実際に完成した作品を観てみたいと思わせるほどカッコいいんですよ。また、「当て馬抜擢」とはいえ、この時代に女性映画監督というものを登場させたことにこの作品の面白さがあります。
総じて、この作品に横溢するのは、一つの「映画愛」なんですね。マックスは映画を愛するあまり犯罪を思いつき、ギャングのレジーも映画が好きだからこそ映画に出資します。引退を決意していたデュークが返り咲いたのも己の映画愛ゆえです。その他、この映画に登場する殆どの人たちが、それぞれの「映画愛」によって動いているんです。そんな「映画愛」を支え、時にその「映画愛」ゆえに破滅させる、ハリウッドという街の妖しい魅力、それがこの作品の本当の主人公なのかもしれません。