アンソニー・ホロヴィッツの『メインテーマは殺人』を読んだ

メインテーマは殺人 / アンソニー・ホロヴィッツ (著), 山田 蘭 (翻訳)

メインテーマは殺人 ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ (創元推理文庫)

自らの葬儀の手配をしたまさにその日、資産家の老婦人は絞殺された。彼女は自分が殺されると知っていたのか? 作家のわたし、アンソニー・ホロヴィッツは、ドラマ『インジャスティス』の脚本執筆で知りあったホーソーンという元刑事から連絡を受ける。この奇妙な事件を捜査する自分を本にしないかというのだ。かくしてわたしは、きわめて有能だが偏屈な男と行動をともにすることに……。ワトスン役は著者自身、謎解きの魅力全開の犯人当てミステリ!

アンソニー・ホロヴィッツの「スーザン・ライランド」シリーズを完読し、そのメタミステリの妙味にすっかり魅了された私は、同じ著者のもう一つの人気シリーズ「ホーソーン&ホロヴィッツ」へと自然に手を伸ばした。まずは第1作『メインテーマは殺人』から。

本作最大の特徴は、作者アンソニー・ホロヴィッツ本人が語り手として登場し、元刑事の偏屈な天才探偵ダニエル・ホーソーンとコンビを組んで事件を追う、というメタフィクション構造にある。「スーザン・ライランド」が小説の中の小説を軸にしたメタミステリなら、こちらは「作者自身がワトソン役を演じる」究極のメタフィクション・ミステリだ。ホームズ&ワトソンを現代的に再構築したバディものとしても十分成立しており、ホロヴィッツの変化球センスは相変わらず冴えている。

物語の発端は、自らの葬儀を手配したその日に資産家の老婦人が絞殺される、というクラシックなフック。老婦人には10年前のひき逃げ事故に関わった過去があり、そこに絡む容疑者たちが次々と浮上する。ホーソーンは警察の非公式コンサルとして動き、ホロヴィッツに「この事件を本にしないか」と持ちかける。かくして二人は行動を共にするが――。

正直なところ、「スーザン・ライランド」の派手などんでん返しや多層構造に慣れた後では、本作の事件は地味に映る。絞殺という古典的な殺し方に加え、テレビドラマの脚本や映画業界といった内輪ネタが序盤に集中するせいか、テンポが重く感じる場面もある。加えてホーソーンは、傲慢で無神経、他人を小馬鹿にした態度で初対面のホロヴィッツを振り回しまくる、超がつくほどの曲者だ。シリーズ1作目ゆえ二人の関係性がまだ醸成されていないのは仕方ないとしても、「こんな人物と行動を共にしたくない」と読者がイラつくのも無理はない。

それでも、本作には見どころが多い。作者本人が語り手を務めるおかげで、ロンドンの街並みやイギリス社会の空気が鮮やかに立ち上がり、リアリティは段違い。実在の映画人や業界エピソードが差し込まれるたび、思わずニヤリとさせられる。ミステリ本筋のフェアプレイ精神は徹底しており、後半で伏線が鮮やかに回収される快感はいかにもホロヴィッツらしい。意外性も十分で、犯人当ての醍醐味をしっかり堪能できる。

総評として、「スーザン・ライランド」ほどの華やかさはないが、本格ミステリとして堅実な一作であり、シリーズの布石としては申し分ないスタートだ。ホーソーンの過去(警察を辞めた理由など)が少しずつ明かされていく全10作の長期プロジェクトとあれば、この偏屈な探偵が巻を重ねるごとにどう変貌していくのか、続きが気にならないわけがない。ミステリ好きなら一読の価値はある。ただし、ホーソーンの性格が肌に合わないと、序盤は少し辛抱が必要かもしれない。