タランティーノ映画の軌跡を追うドキュメンタリー作品『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』

クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男 (監督:タラ・ウッド 2019年アメリカ映画)

このブログでも何度か書いているがオレはクエンティン・タランティーノ作品が大のお気に入りである。この間はタランティーノ映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のノベライズ小説『その昔、ハリウッド』を読んで大いに感銘を受け、「やっぱタラはいいわ!」と感無量になったほどだ。

しかしいつだったか相方さんから「いったいタランティーノのどういう所が好きなの?」と質問をされ、オレはしばし考え込んでしまった。タラの映画はその映画オタクぶりが大いに反映された、マニアックであると同時に映画それ自体をとことん知り尽くした面白さがある、という答え方が一般的かもしれないが、そもそもタラが映画オタクであるという言い方はそう喧伝されているからで、実際どのように重度の映画オタクなのかは、映画好きではあるが映画オタクと言えるほど映画知識の無いオレには実はよく分かっていないのである。

タラは確かに膨大な映画を観ていてマニアックな作品もよく知っているようだし、そういった作品の引用を自らの映画に挿入していることも知ってはいるが、映画好きで引用が多いからと言ってそれだけでタラ映画が成立してるわけではないのだ。それら映画の多くが一般的にはB級映画と言われるもので、そういったB級映画への偏愛がタラ映画の根源にあるということもできるけれども、やはりそれだけでタラ映画を説明できるわけではないし、そもそもそういった映画愛に満ちた映画ファンなど世界中にゴマンといるわけだが、彼らが皆タランティーノになれるかと言うとそういうわけではないのは明らかだ。

結局タラは、ある一定数のファンはいるがどちらかというと陽の当らないニッチなB級映画の、その面白さのエキスを微に入り細に穿ち徹底的に抽出して巧みに自らの作品に取り込み、それをB級映画の範疇に止まらない高い完成度のメジャー級作品として作り上げることができるという卓越した才能を持った映画監督という事になるのだろう。それは当然それまでB級映画を楽しんでいたファンには絶賛を持って受け入れられるだろうし、同時に一般的な映画ファンをも唸らせるものとなって出来上がるのだ。

そういうオレなどもどちらかと言うならB級な映画(タラの愛するようなB級作とはまた違うが)をよく観ていたクチだから、タラ的な映画作法からは非常に心地よいくすぐりと愉しさ、痒い所に手の届くような映画的快感を感じ、それでタラ映画を愛するようになったのだろうと思う。

映画『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』はそんなタラがこれまで作り上げてきた作品を振り返り、出演者やスタッフのインタビューを交えながら映画監督クエンティン・タランティーノの本質に迫ろうというドキュメンタリー作品である。映画では脚本のみ担当した初期の『トゥルー・ロマンス』『ナチュラル・ボーン・キラーズ』を含め、初監督作『レザボア・ドッグス』から始まる綺羅星の如きタラ監督作品の数々が紹介されてゆく。

基本的には監督8作目(『キル・ビル Vol.1』と『Vol.2』は1作として数えられている)となる『ヘイトフル・エイト』までの言及が中心だが、9作目となる『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』にも若干触れられているので(このドキュメント自体が『ワンハリ』と同じ2019年公開作なので間に合わなかったのだろう)、ほぼ全てのタラ監督作品を扱ったものと見ても差し支えないだろう。また、この作品では映画製作におけるエピソードも多数盛り込まれるが、タラと長年の付き合いがありその後性暴力スキャンダルでハリウッドを追われたハーヴェイ・ワインスタインについてもある程度説明が成されている。

作品内ではタラ映画におけるエピソードやインタビューの他、「その時、タラはどうしたのか!?」をアニメーションで再現した映像も差し挟まれ、なかなか楽しめる作りになっていた(ただやはりユマ・サーマンのインタビューが無かったのは寂しかったなあ)。タラ映画ファンのオレではあるが今まで知らなかった事柄もあれこれあり、結構な情報量のある作品だったと感じたが、これは「タランティーノ分析本」などをガッツリと読んでタラを知り尽くしているような方には取り立てて新情報があるわけではない作品に見えるかもしれない。とはいえドキュメンタリー作品として1本にまとめられた映画監督クエンティン・タランティーノの軌跡を眺めるのは、これはこれで愉悦に満ちたものではないかと思うのだ。

唯一無二の作風で世界中の映画ファンに支持され、長編10作目を完成させたら映画監督を引退すると公言しているタランティーノ。監督デビュー作「レザボア・ドッグス」から8作目の「ヘイトフル・エイト」までに出演したサミュエル・L・ジャクソンジェイミー・フォックスダイアン・クルーガーら俳優やスタッフたちが登場し、「レザボア・ドッグス」の伝説の耳切りシーン誕生秘話、「パルプ・フィクション」のキャスティングの裏側、「キル・ビル」撮影現場で起きた事故の真相、そして盟友ティム・ロスが明かす引退後の計画など、驚きのエピソードの数々がタブーなしで語られる。

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