実在した破戒修道女を描く愛と闘争の物語/映画『ベネデッタ』

ベネデッタ (監督:ポール・バーホーベン 2021年フランス映画)

映画監督ポール・バーホーベンといえば『ロボコップ』『トータル・リコール』『スターシップ・トゥルーパーズ』といったSF作品で有名だが、『氷の微笑み』や『ブラック・ブック』といったエグ味の強いサスペンスでも大いに実力を発揮する。そのバーホーベンのエグ味路線を存分に堪能させてくれるのが日本でも先頃公開された最新作『ベネデッタ』だ。

【物語】17世紀、ペシアの町。聖母マリアと対話し奇蹟を起こすとされる少女ベネデッタは、6歳で出家してテアティノ修道院に入る。純粋無垢なまま成人した彼女は、修道院に逃げ込んできた若い女性バルトロメアを助け、秘密の関係を深めていく。そんな中、ベネデッタは聖痕を受けてイエスの花嫁になったとみなされ、新たな修道院長に就任。民衆から聖女と崇められ強大な権力を手にするが……。

ベネデッタ : 作品情報 - 映画.com

『ベネデッタ』は17世紀イタリアを舞台に、実在したという破戒修道女ベネデッタ・カルリーニの数奇な運命を描いた歴史ドラマである。禁欲が掟となる修道院で主人公ベネデッタは同じ修道女と禁断の恋に落ち人目を避けながら愛欲に耽っていた。さらにベネデッタは宗教的トランス状態に落ちやすい女で始終神を見ただの聖痕が現れただのと騒ぎ、それが周囲に信じられてゆくことで修道院内での地位を築いてゆく。

こうして映画は淫蕩な性描写があからさまに描かれ、同時に本来神聖であるはずの修道院内で謀略に満ちた宗教的政治闘争が行われる様をえぐり出してゆくのだ。しかし一見キワモノめいた露悪趣味で塗り固められた物語のように見えながら、この映画の本質となるのは戒律すら飛び越える強烈な愛の姿と、忌まわしい階層社会で一人の女が生き延びるための抜け目ない生存戦略を描いたものであるということだ。

すなわち己の生をどこまでも肯定し自らを縛る頸木からひたすら自由であろうとすること、それを汚濁と清澄が綯い交ぜとなった生々しい描写で見せてゆくこと、それがこの作品であり、結果的に生命感溢れる力強く美しい物語だったとオレは感じた。彗星と死病の襲来、宗教的法悦の見せる幻視の不気味さ、異端審問と火刑といったドロドロとした中世暗黒描写を描き切った点も実に見どころだった。


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