炸裂するタラのハリウッド愛/映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

■ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド (監督:クエンティン・タランティーノ 2019年アメリカ映画)

f:id:globalhead:20190902081237j:plain

オレはクエンティン・タランティーノ監督作品が相当に好きで、家のTV収納棚の一番目立つ所にタランティーノ作品のDVD・ブルーレイ全作品を並べた特別スペースがあるぐらいである。そんなタランティーノの新作が公開されると聞いたらこれはもう喜び勇んで見ざるを得ないではないか。タイトルは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、前作『ヘイトフルエイト』から4年ぶり、9作目の長編作となるのらしい。主演はレオナルド・ディカプリオブラッド・ピットマーゴット・ロビー、他にアル・パチーノやダコタ・ファニングの出演がある。

物語の舞台は60年代ハリウッド、デカプ演じる落ち目のアクションスター/リック・ダルトンとブラピ演じる彼専属スタントマン/クリフ・ブースが主役となる。主演作が減ってやさぐれた日々を送るリックだったが、クリフは鷹揚とした友情で彼を支えてあげていた。そんなある日、リックの隣家に時の寵児、ロマン・ポランスキー監督とその妻である新進女優シャロン・テートマーゴット・ロビー)が引っ越してくる。

物語は全編、実にタランティーノらしい演出で進行してゆく。まず映像面においては60年代ハリウッドの、映画・TVに関するタラのありとあらゆる知識とオタク趣味が開陳され、それはあたかもタイムマシーンでこの時代に旅している様な気分にさせられる。そしてもうひとつ、タラらしい本編と関係あるんだか無いんだかわからないようなダラダラした会話や挿話の数々だ。こうして描かれるリックとクリフの日々は、退屈すらしないもののどこか緩くて漠然としていて、いったいこの物語が何を描こうとしているのかどうにも掴みどころがない。

しかし、これら「緩い」物語の背景に通奏低音のようにかすかに奏でられていくのがシャロン・テートの日々なのである。シャロン・テート、後にハリウッドを恐怖のどん底に落とす猟奇事件の被害者だ。これにより、一見「緩く」進行してゆくこの物語の背後には、常に暗い死の予感が、あたかも細く強靭なピアノ線の様にピンと張り詰め、不快な緊張感を常に漂わせ続けているのだ。いわばシャロン・テートの存在がこの作品の背骨の役割を果たしているということだ。このシャロン・テート事件、並びに事件の中心にいたカルト教団首謀者チャールズ・マンソンについては、知らない方は予習しておいてから映画を観に行った方がいいかもしれない(ただし、何も知らずに観てあとで調べて驚愕するという方法もある、とツイッターである方がおっしゃられていた)。

というわけでこの作品、確かに「タラの60年代ハリウッド愛」は理解できるのだが、なぜシャロン・テートなのか?という部分で釈然としない部分がある。この作品はシャロン・テート事件を描くものではあろうが、それだけを中心に描いた物語でもない。じゃあいったいなんなんだこれは?と思いつつ暫くスクリーンを眺め続けることになる。しかしこれがクライマックスに差し掛かり、これまでの全ての出来事がパチパチパチ!とパズルのピースの如く見事にハマり、ある結末を見せつけられることとなるのだ。オレもここに来て、「これがやりたかったのか!?」と拍手喝采だった。いやーアレはマジびっくらこいたわ。

とはいえ、博覧強記なオタク趣味満開の映像、要領を得ないダラダラした会話、その背後に存在するキリキリと引き絞られた緊張感の在り方など、この作品には実にタラらしい要素が満載だが、逆に、「60年代ハリウッド愛」以外にこの作品ならではの新機軸といったものは見当たらない。この作品は「タランティーノ映画の集大成」といった言い方もされているようだが、と言うよりも、これまでのタラ作品の継ぎはぎ、二番煎じの様な印象すら受ける。オレも長年タラ映画を観続けてそれらの作品をとても愛しているのだが、作品全体の面白さという事に関してはこの作品はその中でも最下位ではないかと思う。

まあ結局、タラも年を取ったということなのだろう。タラ自身「10作映画を撮ったら引退する」という宣言をしていたが、己の技量やら引き出しやらを、ほぼ出し尽くしてしまったという想いがあるのだろう。その中で、自らのフィルモグラフィーの中に「ハリウッド60年代」を描く作品を加えたいと思ったのだろう。確かに完成度的な難はあるにせよ、タラ作品全体を俯瞰するなら、この作品のテーマ自体は「アリ」なのだ。そういった部分で、単体として捉えると茫洋とした作品ではあるにせよ、いつかタラが監督を引退した時に、また新たな評価の在り方が示されるような作品であるような気もするのだ。なにより、オレはこの作品、そんなに嫌いじゃないんだよ。だって、ディカプリオとブラッド・ピットマーゴット・ロビーが出てるってだけでサイコーじゃないか。


タランティーノ監督最新作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」海外版予告編