映画『アムステルダム』はオールスター・キャストが何より楽しい作品だった!

アムステルダム (監督:デビッド・O・ラッセル 2022年アメリカ映画)

映画『アムステルダム』は1930年代のニューヨークを舞台に、深い友情で結ばれた3人の男女が殺人の濡れ衣を晴らすために奔走する!という物語なんですね。実話を元にした物語なのだそうですが、それは実は強大な陰謀に関わる事だったのです。監督は『アメリカン・ハッスル』『世界に一つのプレイブック』のデビッド・O・ラッセル

《物語》1930年代のニューヨーク。かつて第1次世界大戦の戦地で知り合い、終戦後にオランダのアムステルダムで一緒の時間を過ごし、親友となったバート、ハロルド、ヴァレリー。3人は「何があってもお互いを守り合う」と誓い合い、固い友情で結ばれていた。ある時、バートとハロルドがひょんなことから殺人事件に巻き込まれ、容疑者にされてしまう。濡れ衣を着せられた彼らは、疑いを晴らすためにある作戦を思いつくが、次第に自分たちが世界に渦巻く巨大な陰謀の中心にいることに気づく。

アムステルダム : 作品情報 - 映画.com

とはいえなにしろこの作品、物語云々への興味というよりも、よくもこれだけ集めたな!とびっくりさせられるほどの豪華キャストにそそられる作品なんですよ。

まず主演となる3人がノーラン版「バットマン」3部作のクリスチャン・ベール。『アイ・トーニャ』『ザ・スーサイド・スクワッド』の マーゴット・ロビー。『TENET/テネット』『ブラック・クランズマン』のジョン・デヴィッド・ワシントン。この3人だけでも十分凄いんですがそれだけじゃない。

他にもロバート・デ・ニーロ、アニャ・テイラー=ジョイ、ラミ・マレックゾーイ・サルダナマイク・マイヤーズマイケル・シャノンクリス・ロックテイラー・スウィフト、……と、「いったい何がどうしたらこんな豪華キャストにできるんだ」っていうぐらいとんでもないメンツなんですよ。いやもう一つの画面にクリスチャン・ベールマーゴット・ロビーとジョン・デヴィッド・ワシントンとロバート・デ・ニーロとアニャ・テイラー=ジョイとラミ・マレックが出てきたときにゃあ卒倒するかと思いましたよ(しませんけど)!

肝心のお話の方なんですが、とりあえず「巨大な陰謀が背後に横たわる殺人事件の嫌疑を晴らせ!」という事になっています。これは1933年に発覚した「ビジネス・プロット事件」をモチーフにしているらしいんですね。

ビジネス プロット(ウォール街の反乱やホワイト ハウスの反乱とも呼ばれる) は、1933 年にアメリカ合衆国でフランクリン D. ルーズベルト大統領の政府を打倒し、独裁者を設置するための政治的陰謀とされていた。退役海兵隊少将スメドリー・バトラーは、裕福なビジネスマンが、バトラーをリーダーとするファシスト退役軍人の組織を作り、ルーズベルト打倒のためのクーデターに利用しようとしていると主張した。(英文Wikipediaから機械翻訳

Business Plot - Wikipedia

映画の舞台となる1930年代は第1時世界大戦の後、第2時世界大戦の前。この両大戦間期ならではのきな臭い世界情勢が物語の背後にあるわけです。とはいえ、実際観てみるとこの粗筋から想像するようなスリルとサスペンス!といったものとは微妙に異なるんですよ。

この映画の要となるのはこういった物語性というよりも、《クセの強い主人公たちが薄気味悪い陰謀に関わってしまい、胡散臭い連中の助けを借りながら解決しようとするが、所々で「俺たちの友情!」と馬鹿の一つ覚えみたいに盛り上がって脱線し続ける》という「なんだか微妙に変な人たちの変なお話」なんですね。つまり俳優たちの「怪演」を見せ続けるのがこの映画の真の趣旨じゃないかと思うんですよ。

まずクリスチャン・ベール演じるバートは戦傷により義眼でコルセットなしではいられないボロボロの体をしています。マーゴット・ロビー演じるヴァレリー神経症持ちのエキセントリックなアーチストです。ジョン・デヴィッド・ワシントン演じるハロルドは普通ですが実はこの映画では黒人だけが皆普通です。この3人が頼るアニャ・テイラー=ジョイとラミ・マレックの演じる富豪夫妻は慇懃で気持ちの悪い連中です。マイク・マイヤーズマイケル・シャノン演じる諜報部員はひたすら胡散臭いです。こんな彼らが醸し出すスラップスティックさが作品の主眼だったんじゃないでしょうか。

物語的に言うなら途中までの謎めいた展開こそ引き込まれましたが、ラストの「真実を元にした顛末」に辿り着くまでが少々捻りに乏しく、締めくくり方にしても安直に感じる部分もあります。しかし出演者の存在感とコミカルな演出の良さがそれを帳消しにしてくれて、楽しい気分で劇場を出ることができました。