北欧ミステリ『晴れた日の森に死す』を読んだ

晴れた日の森に死す/カーリン・フォッスム (著), 成川 裕子 (翻訳)

晴れた日の森に死す (創元推理文庫)

ノルウェーの森の奥で老女が殺害される。被害者の左目には鍬が突き刺さっていた。第一発見者の少年が、精神病院に入所している青年エリケを現場で目撃していた。捜査陣を率いるセイエル警部は、エリケを犯人と決めつける者たちの偏見の言葉に左右されず、冷静に手がかりを集めていく。だが信じがたい事実が発覚。エリケは近くの町の銀行強盗に巻き込まれ、銃を持って逃走する強盗犯の人質になっていた。ガラスの鍵賞受賞作家が贈る衝撃のミステリ!

作者カーリン・フォッスムはノルウェーの作家となる。お話は精神疾患を持つ少年が殺人事件の犯人に疑われるが、彼は病院を抜け出してその徘徊中に、銀行強盗事件の人質となり連れ去られてしまう、というもの。ミステリとしてのポイントは少年は本当に殺人犯なのか?という点と人質となった少年はその後どうなるのか?という点になる。

物語では逃走中の強盗犯と少年がなぜか心を通わすようになり、少年のトラウマを解きほぐしてゆくという展開になるが、ここがまず説得力が希薄だと感じた。作者は二人の心の交流をメインプロットとして描きたかったのだろうが、設定に無理があるのではないか。ストックホルム症候群というには心の交流があまりに早々とし過ぎるからだ。

少年はまともな会話の成り立たない精神構造をしており、目撃者として証言もできない病症だ。だから、強盗犯はさっさとどこかに放免した方が足手まといが減って逃走が楽になったはずだろう。そして、この強盗犯も若者であるせいか少年とフレンドリーになり過ぎで、犯罪を犯して逃走中であることの緊張感が微塵もない。

こういったプロットに作者自身も持て余してしまったのか、ラストもどうにも投げっ放しの印象が強い。殺人事件の真犯人にしても早い段階で想像がついてしまう。社会的弱者である精神障碍者に光を当てたかったのだろうがアプローチが曖昧過ぎた。ただし少年と強盗犯を追う警察官の造形は悪くない。それなりに評価の高いミステリなのらしいが、全体的には今一つに感じた。