冥府魔道を突き進む父娘を描くバイオレンスアクション小説『拳銃使いの娘』

■拳銃使いの娘/ジョーダン・ハーパー

拳銃使いの娘 (ハヤカワ・ミステリ1939)

11歳のポリーの前に、刑務所帰りの実の父親ネイトが突然現われた。獄中で凶悪なギャング組織を敵に回したネイトには、妻子ともども処刑命令が出ており、家族を救うため釈放されるや駆けつけたのだった。だが時すでに遅くポリーの母親は殺されてしまった。自らと娘の命を救うため、ネイトはポリーを連れて逃亡の旅に出る。処刑命令を出した組織に損害を与えるため、道々で強盗をくりかえす父子。暴力と犯罪に満ち危険と隣りあわせの旅の中で、ポリーは徐々に生き延びる術を身に着けていく。迫る追っ手と警察をかわして、父子は生き残れるか? 

刑務所帰りの父と11歳になるその娘が、ある理由からギャング団に命を狙われ、逃走と潜伏を繰り返しながら徐々に反撃に打って出るが!?というノワール・アクション小説である。相手もワルだが父親も相当ワル、 係わる人間みんなワル、事件を追う警官までサイコパス野郎、物語は血と銃弾と死体が溢れるウルトラバイオレンス展開、という「ヒャッハー!」世界が描かれるのが本作だ。

しかしその中で一点異質なのが11歳の少女ポリーの存在だ。熊のぬいぐるみを友人とし空想癖のある無垢な彼女がこの無常の世界でどう生きるのか?というと、なんとこれが父親の教えを請い野獣どもの闊歩する世界でファイターとして生きる術を会得して行くのである。まさに冥府魔道に生きる父と子、大人と少女、こんな設定に『子連れ狼』や『レオン』を連想してしまうが、やはり作者にはそれらの作品が念頭にあったらしい。作者は他に『ペーパームーン』を挙げていたが、オレは『キック・アス』もその中に入れていいのではないかと思う。

少女ポリーの存在はこの作品のキモとなっており、か弱い少女でしかなかった彼女がどのように成長し殺戮者たちを相手にサバイブしてゆくのかが見所となる。法もモラルも通用しない世界で自らも強くあらねばならないと決心する彼女の姿は、この物語の中で最も大きな共感を呼ぶポイントだからだ。あと熊のぬいぐるみがいい具合にお話に絡んでくるのも楽しくていい。映画化が決定したそうだがそれも当然だと思えるようなビジュアル喚起力のある傑作小説だった。できるなら主人公役はジェラルド・バトラーにやってほしいな。

拳銃使いの娘 (ハヤカワ・ミステリ1939)