ブライアン・フェリーの『マムーナ/ホロスコープ(デラックス・エディション)』がリリースされてオレは感涙にむせんでいる

マムーナ/ホロスコープ(デラックス・エディション)/ ブライアン・フェリー

Mamouna/Horoscope

ブライアン・フェリーが1994年にリリースしたアルバム『マムーナ』の3CDデラックスエディション・ボックスセットが去年の暮れに発売されていたことを最近知り、慌てて購入した。しかもこのデラックスエディション、フェリー・ファンの間では伝説となっている未発表アルバム『ホロスコープ』が同梱されているというからその価値は計り知れない。なのでこのデラックスエディションは『マムーナ/ホロスコープ』というアルバムタイトルになっている。ボックスセットにおける『ホロスコープ』のジャケットも当時予定されていたジャケットなのらしい。

アルバム『ホロスコープ』は1987年にリリースされたフェリーのソロアルバム『ベイト・ノワール』発表後に製作に入ったが、複雑怪奇化したレコーディングとオーバーダビングにフェリー自身が疲弊し、製作に6年を費やしながら結局完成を見なかったという曰く付きの作品だ。あまりに難航したせいで製作の途中に息抜きで『タクシー』(1993)というカヴァーアルバムを出したほどなのである。その後『ホロスコープ』内の楽曲の幾つかは解体再構築されて、1994年発売の『マムーナ』、2014年発売の『アヴォンモア』の中に吸収されたという訳なのだ(実質的な未発表曲はM7の「Raga」のみか?)。

そういった経緯があるため、今『ホロスコープ』をアルバムとして聴いても『マムーナ』の別バージョン+アルファに聴こえてしまう事と、おそらくこれが決して『ホロスコープ』の真の完成形ではないだろう事から、「幻の未発表アルバム遂に完成!」という訳にはいかないのだろう。けれども、数十年前から噂には聞いていたあの作品をやっと耳にすることができるという喜びは、ファン冥利に尽きるものがあるのだ。それともう一つ、アルバムのラストを飾るのがロキシー・ミュージックにおける名曲中の名曲、「マザー・オブ・パール」の1994年バージョンだというのには正直驚いたし、迷宮的構成を為していたオリジナルが『ホロスコープ』バージョンでは力の抜けたしみじみと心に染み渡る曲と化していて、もうオレは、涙、涙……。

一方CD1『マムーナ』のデラックス・エディションは1999年にリマスタリングされたバージョンとなり、オリジナルからより一層倦怠と頽廃に満ちた音となっている(と思う)。『マムーナ』自体もともとオレは好きなアルバムで、というのは1982年にリリースされたロキシー・ミュージックの最終アルバムであり最高傑作アルバムである『アヴァロン』において遂に結実したはずのフェリーの「愛の成就」が、この『マムーナ』ではぐずぐずとした寂寞感に覆われていて、その変節の在り方、人生の寄る辺なさに非常に惹き込まれてしまったからなのだ。

CD3は『マムーナ・スケッチズ』と題され、『マムーナ』収録曲の初期録音やインストルメンタルが収録されている。いわば薄味となった淡泊な『マムーナ』ということができるが、シングルB面曲集といった捉え方で構わないだろう。ただフェリーのシングルB面曲やインストルメンタルは静謐で心に沁みる曲が多く、ファンにとってこの『マムーナ・スケッチズ』は大切な1枚となる事だろう。なお輸入盤国内仕様では英文ブックレットとフェリーさんからメッセージとその対訳、日本限定ジャケットデザインステッカー3種が封入されている。アナログ盤は2LPで『マムーナ・スケッチズ』は未収録。

そしてこれはおそろしく個人的な話なのだが、定年を迎える直前という人生の節目に、この『マムーナ/ホロスコープ』が自分の前に届けられた事がひどく運命的に思えてしまい、強い感慨を覚えてしまうのだ。ああ、オレの人生は、やっぱり、フェリーだったんだな。

Mamouna/Horoscope

Mamouna/Horoscope

  • アーティスト:Bryan Ferry
  • インディーズレーベル
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