最新日本公開インド映画を網羅した『インド映画完全ガイド』が発売されたのであなたは読むがいいのです。

■インド映画完全ガイド マサラムービーから新感覚インド映画へ / 松岡環(監修・編)夏目美雪+佐野亨(編集)

インド映画完全ガイド マサラムービーから新感覚インド映画へ

◎"マサラ・ムービー"?"新感覚派"?

「インド映画キテルらしいけど、興味はあるけどどんな映画あるか分かんないし、どれが面白いか分かんないし、そんな一所懸命探すのも面倒だし、いったいどうすりゃいいの?」と思われてるそこのアナタ。そうそう、アナタです。そんなアナタに絶好な本が発売されました。これです。『インド映画完全ガイド』。サブタイトルは「マサラムービーから新感覚インド映画へ」。
「マサラってインドカレー屋で聞いたことあるな。インドだしカレー映画って理解でOK?」と思われましたか。いやカレー映画でも問題ありません。一応知ったようなことを言うとマサラとは「南アジアの料理における用語で、様々な香辛料を粉状にして混ぜ合わせた物」のことで、つまりマサラのようにいろんな要素が混ぜこぜになった映画のことを指します。それは恋愛!アクション!感動!驚異!笑い!当然歌と踊り!その他もろもろ!のオールインワン・ムービーということです。昔の日本の正月映画もこんなものでした。老若男女誰でも楽しめにっこり笑って劇場から出ていける。そんな映画のことです。
一方「新感覚インド映画」ってなんなんでしょう。それは先に挙げた「マサラ・ムービー」の範疇から外れ、シナリオや構成に重きを置き、さらに「歌わない踊らない」という現代のインド映画の潮流です。ハリウッド映画的になってきたとも言えますが、インド映画はハリウッドを学習しつつも別にハリウッドを目指しているわけでは無いのでこの言い方はちょっと正確ではありません。むしろ「高度経済成長下における都市部の観客のニーズ」ということなんですが、こういうメンドクサイ文言はオレも単なる受け売りだし特に忘れて構わないです。知ってもらいたいのは「今や歌って踊ってばかりいてなんだか知らないけどダラダラと長いインド映画ばかりじゃなくなってきてるんですよ」ということです。

◎最新日本公開インド映画作品ガイド

この『インド映画完全ガイド』は主に日本で最近まで公開されたインド映画を中心に構成されています。ごく最近の作品はDVDやBlu-rayで入手可能だし、当然レンタルで観ることもできます。ただしちょっと古い作品だとソフトのリリースはあったものの現在廃盤というものが多く、これはレンタル店でしつこく探すしかありません。どちらにしろ、日本語字幕、あるいは吹き替えのある、容易に観ることのできるインド映画作品が並べられています。同時に、紹介されているインド映画スターも、これも日本公開作のある有名スターが中心となっています。
こういった構成から、この『インド映画完全ガイド』はあくまでインド映画のスターターガイドというものになっており、これからインド映画を観られる方にはとても分かり易く情報の網羅された本になっています。逆に言うなら、さんざんインド映画を観てきた方にとっては知っていることばかりで残念ながら新鮮味が乏しいかもしれません。海外からインド映画輸入DVDを購入して視聴しているようなコア・ファンには、むしろ「インド映画の膨大な海」から珠玉の作品の数々を選び出し紹介するような書籍が必要かもしれません。というかそういう本があったらこのオレが欲しいぐらいなのですが、まあニーズの数を考えると出版は難しいだろうナァ…ということは容易に想像できます。
そういった部分で、この本は最新インド映画ガイドではあっても"インド映画「完全」ガイド"ではないのですが、執筆者サイドにも構成に対する葛藤はあったかと思います。2000円程度の購入しやすい価格でカラーページの多い200ページ程度のボリュームを持つムック本で出来ることの限界というのはやはりあるのです。また、インド映画理解をまともにやろうとすると、その文化や歴史、文学、宗教のありかたのみならず、地勢や言語・人種・人口構成、経済成長推移まで動員して観なければならならないという、おそろしくハードルの高いものになってしまいます。もうこうなってくると学問の領域であり、それはそれで楽しかったりはするのですが、「映画を楽しみたい」という純粋さからは一歩離れたものになってしまいます。
それを補うものとして、この本では4章以降に「インド映画の全貌」「インド映画の多様な要素」「インド映画を知るためのデータと資料」という章が用意されています。ここでは1作1作の映画紹介を離れ、より専門的に、しかも簡易にインド映画の全体像とその潮流の行方を語ってゆきます。多分執筆者の方々は「この短さではとても語れない」ことをどれだけ短く分かり易く書くのかに腐心されたことでしょう。しかしこの4章以降にこの本の真価が発揮されています。短くはありますが、ここにこそ「完全」ガイドへの試行錯誤が見え隠れするのです。こういう本は、やはり売れなければなりません。そして、売れることで、内容が改訂されさらに充実した2版、3版が出版されることを夢見たいと思います。
Amazonでは「インド映画完全ガイド ボリウッド・フィルムに首ったけ」というタイトルで紹介されていますが実際は「インド映画完全ガイド マサラムービーから新感覚インド映画へ」です。

◎内容紹介

ムトゥ 踊るマハラジャ』以降のインド映画を、その変化を踏まえつつ分析し、歌って踊るマサラムービーだけでない「新感覚インド映画」とも呼ぶべき、現在の多様な魅力を紹介する。見るべきインド映画、インド映画の大スターたち、インド映画の歴史、データと資料など、盛りだくさんの内容。


【目次】
序章 いま、インド映画が来てる!
第1章 インド映画のここに注目!
第2章 インド映画のスター
第3章 見ておきたいインド映画ベストセレクション
第4章 インド映画の全貌
第5章 インド映画の多様な要素
第6章 インド映画を知るためのデータと資料


【著者について】
インド映画字幕翻訳者。インド映画研究の第一人者。大阪外国語大学インド・パキスタン語科卒。『ムトゥ 踊るマハラジャ』ほかの字幕翻訳を担当。


内容(「BOOK」データベースより)
あらゆる娯楽要素を盛り込んだ典型的な「マサラムービー」の時代から転じて、インド映画はより多様性を見せ始めた。これらの「新感覚」インド映画は、新たな魅力で幅広い観客層を魅了しつつある。日本で一大ブームとなった『ムトゥ 踊るマハラジャ』以降のインド映画を、その変化を踏まえつつ分析し、『きっと、うまくいく』『マダム・イン・ニューヨーク』『めぐり逢わせのお弁当』『女神は二度微笑む』等に見られる新たな魅力と、多様性の全貌を紹介する。