良いナチスは死んだナチスだッ!?/映画『アンジェントルマン』

アンジェントルマン (監督:ガイ・リッチー 2025年アメリカ・イギリス・トルコ映画

第2次世界大戦におけるイギリスの対ナチスドイツ隠密作戦を描いた戦争アクション。ウィンストン・チャーチルイアン・フレミングが大戦中に設立した秘密戦闘機関であり、英国諜報機関MI6の前身とも言われる特殊作戦執行部(SOE)の実在の作戦を描いた作品だという。原題『The Ministry of Ungentlemanly Warfare』は直訳すると「非紳士的な戦争省」、いわば”汚れ仕事専門の特殊工作屋”とでもいった意味なのだろう。主人公は『007』ジェームズ・ボンドのモデルとなった人物らしく、映画にもイアン・フレミングや”M”と呼ばれる人物が登場してなるほどと思わせるものがある。

主演は『マン・オブ・スティール』『ARGYLLE/アーガイル』のヘンリー・カヴィル。もともと端正なマスクの彼がむさくるしい髭もじゃ姿で登場するので最初誰だかわからなかった。共演に『ベイビー・ドライバー』『ゴジラvsコング』のエイザ・ゴンザレス。監督は『シャーロック・ホームズ』『コードネーム U.N.C.L.E.』のガイ・リッチーガイ・リッチーには別に『ジェントルメン』という作品があるが、この『アンジェントルメン』とは何も関係ない作品である。

【STORY】第二次世界大戦中、独ナチス軍の猛攻により英国は窮地に追いこまれていた。ガス少佐(ヘンリー・カヴィル)は特殊作戦執行部に召喚され、ガビンズ‘M’少将とその部下イアン・フレミングから任務を言い渡される。 「英国軍にもナチスにも見つからず、北大西洋上のUボートを無力化せよ――」 “イカれた”メンバーを集め漁師を装い船で現地へと向かうガス。潜入工作員マージョリー、RHらとともに作戦決行に向け準備を進めるが、予想だにしない展開により事態は暗礁へと乗り上げてしまい……。

映画『アンジェントルメン』オフィシャルサイト

物語の流れとしては「英国の脅威となっているナチスドイツ・Uボートの補給路を断て」という指令の元、能力は高いが素行のよくない”アンジェントルメン”な連中が招集され、漁船に偽装した船舶に乗りこみナチス支配下にある北アフリカ沿岸で破壊工作を行うというもの。ヘンリー・カヴィル演じる”アンジェントルメン”リーダー、ガスが率いる実働班が景気のいい戦闘を繰り広げるパートと、エイザ・ゴンザレス演じる妖艶な潜入工作員マージョリーによる情報収集作戦を展開するパートが交互に描かれてゆき、緩急がつけられている。

“良いナチスは死んだナチス“なんて言葉があるが、なにしろナチスというのは”どんなに派手に大量に手段を問わずぶっ殺しても誰一人文句を言わないどころか拍手喝采を持って受け入れられる歴史に名を残す人間集団“である。恐怖と苦痛に顔を歪ませながら素手で刃で銃で殺され血反吐を吐き血だるまとなり時として臓物撒き散らしながら死のうとも、映画を観ている観客は彼らが死ねば死ぬほど留飲を下げ歓喜に沸き興奮して床にポップコーンをぶちまけるのだ。人権がないどころか人間扱いすらされていない。同ジャンルとしてはチンピラヤクザやチンピラ侍、宇宙人やモンスターやショッカーの戦闘員が挙げられるかもしれない。殺されても仕方がないどころか喜ばれる連中だが、人が(人じゃない場合もあるが)殺されて喜ばれる、あるいは殺されるのを見て楽しい、というのも冷静に考えるとある種倒錯したものがあるのかもしれない。

何が言いたいのかというとこの映画はナチスの連中をどこまでもひたすら徹底的に殺して殺して殺しまくる、あたかも雑草を草刈り機にかけるかのように大量殺戮しまくる様子をとことん楽しむ娯楽作として完成しているのである。同傾向の映画はほかにもたくさんあるだろうが、オレはタランティーノの『イングロリアス・バスターズ』を真っ先に思い出してしまった。いわばこの作品、ガイ・リッチーによる『イングロリアス・バスターズ』だということもできるかもしれない。

ただし難点となるのは、この作品ではあまりにもホイホイとお手軽にぶっ殺しまくっていることである。そして画面で何十人何百人ナチスが血の海に沈んで絶命しても、”アンジェントルメン”チームの皆さんはせいぜいかすり傷程度で全員生還しちゃうのである。いわば無敵モードでFPSゲームをやっているみたいなもので、無理なくゲームには勝てるがこれでは緊張感に乏しく、面白味が薄まってしまうのだ。それもあってかクライマックスに盛り上がりが欠け、え?これが最終エピソードだったの?と思ってしまうような小振りなラストを迎えて映画は終わってしまう。まあ史実を元にしているという縛りもあるんだろうが、なんだか不完全燃焼感を残して劇場を出ることになってしまった。やっぱさあ、嘘でもいいからベルリンまで突入してヒトラーナチス高官を火炎放射器で火だるまとかにしてくれよな!と思ってしまった。