破墓/パミョ (監督:チャン・ジェヒョン 2024年韓国映画)
跡継ぎが代々奇病に罹る資産家一家に調査を依頼された風水師は、先祖の墓に原因があることをつきとめる。祟りを鎮めるために改葬を行おうとする風水師だったが、それは新たな災厄の始まりだったのだ。韓国映画『破墓/パミョ』は、風水と埋葬という韓国社会では慣例となっている習俗を描きつつ、恐るべき展開を見せるオカルトホラー作品である。
主人公となる風水師サンドクを『オールド・ボーイ』のチェ・ミンシク、巫堂ファリムをドラマ『トッケビ 君がくれた愛しい日々』のキム・ゴウン、葬儀師ヨングンを『コンフィデンシャル』シリーズのユ・ヘジンが演じ、オカルト映画『プリースト 悪魔を葬るもの』のチャン・ジェヒョンが監督・脚本を務めた。
《STORY》巫堂ファリムと弟子のボンギルは、跡継ぎが代々謎の病気にかかるという奇妙な家族から、高額の報酬と引き換えに依頼を受ける。先祖の墓が原因であることがすぐに判明し、お金の臭いを嗅ぎつけた風水師サンドクと葬儀師ヨングンも合流。4人はお祓いと改葬を同時に行うことにするが、墓を掘り返す儀式を始めた矢先、不可解な出来事が彼らを襲う。
”風水と埋葬”にまつわる韓国映画というと2018年に時代劇『風水師 王の運命を決めた男』が公開されており、この『破墓/パミョ』同様極めてオカルティックな展開を見せる作品として完成していた。ここで扱われる”風水と埋葬”とは、先祖の墓の方角や場所が良ければ一族は繁栄し、逆に悪ければ衰退や災厄が訪れる、といったものだ。『風水師 王の運命を決めた男』は時の権力者たちがこの「墓の場所」を巡って牽制しあい、風水師を使って陰謀を巡らせるという物語だった。
そしてこの『破墓/パミョ』では「墓の場所」が悪かったばかりに祟られてしまった資産家一族が登場する。風水師サンドクはその「墓の場所」を正すために仲間たちとともに「破墓/パミョ」の儀式を行うが、そもそも依頼主がなぜ”悪所”に墓を建てることになってしまったのか、その場所を指示したという僧侶はなぜ何の目的でこのような邪な所業を成したのか、という部分にミステリーが生まれてゆく。次第に明らかにされるその謎の背景には、日帝時代、さらには数百年前の日本にまで遡る恐るべき呪いが存在していたのだ。
こうして”風水と埋葬”にまつわる単純なオカルトホラーとして始まった物語は、次第に伝奇ホラーの様相を呈してゆき、日本と韓国とをまたいだ歴史の闇を炙り出してゆくのだ。映画で行われる「破墓/パミョ」の儀式はひたすらアニミスティックであり、その異様な土俗性は今作の大きなハイライトとなる。物語内で描かれる様々な風水のしきたり(ほとんど創作ではあろうが)は、現代社会においても超自然のことわりが支配する世界が存在することの不気味さを顕わにする。派手な特殊効果や目を覆うような残虐描写を極力排し、要所要所で不気味な演出を炸裂させることでリアリティを加味する秀逸な作品だった。
風水と歴史の闇にまつわる霊的呪術を描く伝奇ホラー作品ではあるけれども、映画の完成度とは離れた部分でちょっと気になったのは、「先祖が子孫に祟りを成す」というのはどうにも歪な構造ではあるな、ということだ。これは韓国の強烈な儒教社会で権勢をふるう年長者が、死してなお生ける者たちに上下関係を押し付けるという構図に他ならないではないか。本来なら子孫繁栄が一族の第一義であるべきものを、死んでいる年長者のわがままで一族郎党不幸になってしまうとは本末転倒である。逆に言うなら、霊がどうとかいう以前に年長者の”呪い”というのはここまで強烈だということなのだろう。そういった意味で韓国式儒教作法こそがホラーである、という物語なのだともいえるのだ。