インヴィンシブル(PC / PS5 / Xbox Series X|S)
『ソラリス』で知られるポーランドのSF作家スタニスワフ・レムの長編小説『インヴィンシブル』(旧題『砂漠の惑星』)を元にしたSFスリラーアドべンチャーゲームが発売される、と聞いたらSFファンでありレム・ファンでもあるオレはもう買わざるをえないではないか。
ゲーム自体は原作となる『インヴィンシブル』の前日譚という形をとっている。原作では「惑星レギスⅢで消息を絶った探査船コンドル号救出のため向かったインヴィンシブル号が遭遇する恐るべき真実」を描くが、ゲームでは「惑星レギスⅢ探索中の惑星連邦船ドラゴンフライ号が遭難し、ドラゴンフライ号隊員ヤスナが他の隊員を捜索中に敵対する超宇宙連合船コンドル号遭難の事実と惑星レギスⅢの真実を知る」といった内容となる。
ストーリーのキモとなるのはこの「惑星レギスⅢの恐るべき真実」である。レギスⅢは空気も水もあり気温も安定した生命発生に適する惑星なのにもかかわらず、惑星の多くは砂漠に覆われ、海に魚類を発見しただけで地上は生命の無い死の世界だ。さらにその地上には太古の建築物のような遺物が発見される。そしてこのレギスⅢを探索した者は誰もが皆謎の死を迎えるか、痴呆のような状態で発見されるのだ。探索隊にいったい何が起こったのか?惑星レギスⅢに過去何があったのか?こうして物語は宇宙スケールの謎と驚異を描くことになるのである。
ゲームプレイヤーはドラゴンフライ号隊員ヤスナとなり、ヤスナの一人称視点でゲームが進められる。ゲーム冒頭ではヤスナは事故により記憶障害を起こしており、それにより惑星の謎をいちから検証してゆかなければならない。最初は徒歩により惑星を彷徨い歩くことになるが、その後陸上走行車を手に入れてゲームを進行させてゆく。
このゲームの一番の面白さとなるのは、謎の解明だけではなく、険しい岩山と砂に覆われたレギスⅢを彷徨い歩きながら、惑星の奇観を徹底的に堪能し尽くすことにある。誰も見たことの無いような神秘的で異様な光景に覆われた世界を、たった一人で走破し、危険と不安に満ちた捜索の旅を、インタラクティヴに体験するのがこのゲームの真骨頂だ。また、「アトムパンク」と形容される20世紀中庸にイメージされたレトロなSFデザインを持ち込んでいる部分でも楽しい作品だ。
アドベンチャーゲームという体裁から、ストーリーに沿って延々と旅を続け情報収集しフラグ立てしてゆくのがメインとなり、テクニカルなアクションやパズル要素、成長や収集といったゲーム性も存在しないが、後半では緊張感溢れる戦闘も用意されていて十分なカタルシスが得られる。ただし情報量の少ない地図を頼りに高低差が多く行き止まりもあるマップを迷いつつ進まなければならないシーンもあり、また「走る」「ジャンプする」といったコマンドもないので、アクションゲーム慣れしていると若干じれったく感じる部分もあり、この辺りは割り切ってプレイするべきだろう。ゲームは11種類あるというマルチエンディングを持ち込んでいるが、オレ自身は3つぐらい体験してみた。
それとオレ個人は原作『インヴィンシブル』を既に読んでいるので、「惑星レギスⅢの恐るべき真実」がどんなものなのかあらかじめ知っている状態からプレイすることになり、当然とはいえ「謎の真相」に対する驚愕が無かったのが少々残念だった。逆に、前日譚とは言いながら結構原作小説のアウトラインをなぞる形で物語が進行する為、原作クライマックスで登場するアレとかアレが大破壊を行うシーンをゲームで体験できたのはちょっと楽しかった。プレイ時間8時間。