ゲーム『Clair Obscur: Expedition 33(クレール オブスキュール:エクスペディション33)』が最高に素晴らしいRPGだった

Clair Obscur: Expedition 33(クレールオブスキュール:エクスペディション33)(PC/PlayStation5/Xbox Series X/S)

数々の賞を受賞した名作ゲーム『Clair Obscur: Expedition 33(クレールオブスキュール:エクスペディション33)』

昨年4月に発売され、その壮絶な物語と緊張感溢れるゲームシステムにより、世界の数々の賞と圧倒的な人気を獲得したRPG、『Clair Obscur: Expedition 33(クレールオブスキュール:エクスペディション33)』を最近やっとクリアした。クリア時間は49時間、キャラクターの最大レベルは61(でも難易度は一番優しいやつ)。そしてこれが、評判に違わぬ素晴らしいゲームだった。興奮し、度肝を抜かれ、心を引き裂かれ、そして感銘した。

『Clair Obscur: Expedition 33』は、フランスのベル・エポック時代を彷彿とさせる幻想的な世界を舞台にしたRPGだ。この世界では、「ペイントレス」と呼ばれる存在が年に一度目覚め、巨柱に「数字」を描く。その数字と同じ年齢の人間は、薔薇の花弁と化して消滅してしまう。次の数字は「33」。生存者がわずかとなった人間たちは、この呪われた連鎖を断ち切るため、精鋭部隊「第33遠征隊」を結成する。

主人公ギュスターヴたちは、ペイントレスを抹殺するという決死の任務を背負い、彼女が眠る地を目指して旅立つ。迫りくる死のカウントダウンの中で、仲間との絆や世界の真実、そして絶望に抗う人々の物語が、重厚かつ美麗なグラフィックで描かれる。ちなみに少々長ったらしいタイトルの意味は直訳すると「明暗法:第33遠征隊」となるが、「明暗法」という言葉はこの物語が「絵画」と関わっていることが暗に示されている。

「絶望の上に絶望を重ねてゆく」という最凶の展開

まずその設定の異様さに度肝を抜かれる。「毎年ある一定年齢以上の人間は消滅する。そしてその年齢制限は年々下がってゆく」という設定、それがなぜなのか全く分からない(ただしゲーム中盤で判明する)、ということも併せて相当に異様だ。要するに人々が、理解不能の理由により、ゆっくりと、しかし確実に消滅へと向かっている世界が舞台なのだ。この設定、個人的には小松左京のSF短編小説『お召し』の不気味さを思い出してしまった。

そしてそれを再現するグラフィックに目が釘付けになる。ベル・エポック時代とは19世紀末から第一次世界大戦勃発までの時期を指すフランスの歴史・文化を指すが、『Clair Obscur: Expedition 33』ではそのフランス世界が溶解し捻じ曲がったような異形のフランス世界として描かれる。そして海の遥か彼方には、「33」という数字の書かれた巨大なモノリスがそびえ、そのモノリスの下で長髪に隠れて顔の見えない巨大な女が、頭を垂れてしゃがみ込んでいる姿が見える。この「女」が世界を破滅に導く「ペイントレス」という存在なのだが、冒頭から「ボスキャラ」が世界の向こうに見えているということもまた破格である。

物語冒頭から、ペイントレスの呪いによりこの世界から消え去ってゆく人々の残酷な運命、残された者の胸張り裂ける悲しみが描かれ、さらにペイントレス討伐を胸に船出した「第33遠征隊」が、謎の存在の攻撃によりほぼ全滅してしまうという驚愕展開を迎える。プレイしていた私は呆然となってしまった。これは、「絶望の上に絶望を重ねてゆく」という、最凶最悪の物語だったのだ。そこでなんとか生き残った数名がパーティーを組み、ペイントレスの眠る地へと地を這いずりながら進んでゆくのだ。旅の途中には先に遠征し全滅した遠征隊員の死体が累々と折り重なっており、腐臭がしそうなほどだ。これはなんと恐ろしい物語なのだろう。この壮絶な展開に私はすぐさまこのゲームの虜となってしまった。

ヘボゲーマーでも親しみやすいゲームシステム

戦闘等のゲームシステムやその特徴は多くのWebサイトで書かれているので簡単に紹介しよう。まずゲームジャンルはRPGであり、構造的にはコマンド選択式のターン制RPGである。ただしアクション性も多大に持ち込まれ、攻撃力に影響する目押しや、「パリィ(受け流し)」や「回避」が重要な戦略的要素になる。パリィが成功すると強力なカウンター攻撃が発動するからで、このゲームを「パリィゲームだ」と表現している方もいるほどだ。

ただしオレは相当のヘボゲーマーで、他のゲームでもパリィの成功率はジリ貧であり、「パリィゲーム」と聞いたときはゲーム購入を一時控えていたほどなのだが、実際プレイしてみると、パリィに頼らなくても結構戦闘が可能なのだ(難易度が低かったせいもあるが)。それと同時に、フィールドで同じような敵が何度も登場するので、練習がてらパリィのタイミングを試してみるのが「楽しかった」。それでもたいした上手くならなかったが、「パリィが必須」なのではなく「パリィを試す楽しさ」が存在しているといった点で、優れたゲームバランスを感じた。

それよりも感心したのは「ビルドの楽しさ」だ。レベルアップに応じて獲得するスキルのどれを使用するか頭をひねるのは楽しかったし、プレイ中に入手する「ピクトス」と呼ばれるアイテムをどう組み合わせて戦闘を有利な条件へ持ってゆけるのかを考えるのかも楽しかった。ピクトスによっては強力な敵と戦闘しなければ入手できないものもあり、また「かりそめの力」のようにそれを装備することで攻撃力が劇的に向上するピクトスもあったりで、ゲーム後半は「ピクトス探しの旅」を続けていたほどである。

奥深く神秘的で内省的な物語

なぜペイントレスによりこの世界から人が消し去られてゆくのか?という謎により物語は牽引されてゆくが、その真実が明らかになった後も、この世界がひどく謎めいたものであることに変わりはない。その真相がどういったものなのかは書かないが、ひとつ言えるのは、この物語が単なる「宇宙を滅ぼす絶対的な邪悪存在を討伐する勇者たちの物語」では決してない、ということだ。これは大いに評価できるだろう。

ネタバレぎりぎりで書くのなら『Clair Obscur: Expedition 33』は外面的宇宙ではなく内面的宇宙についての物語であり、マクロ的世界ではなくもっとミクロな世界が舞台となった物語なのだ。しかも、「”世界”を救うことは、決して”世界”を救うことではない」という恐るべき矛盾を演出しきっているという部分にストーリーテリングの秀逸さがにじみ出ている。少々分かり難い物語であるとはいえ、こういった点も他を圧倒する優れた部分だ。

ファンタジーとは何か

同時に、まさにフランス製作であることをうかがわせる、建築物やコスチュームの独特で優れた意匠も目を惹く点だ。特にキャラクターの容姿は、ヨーロッパ人ならではの独特な顔つきをしており、ときどき「確かにフランス映画を観ているとこんな顔の俳優が好まれるよなあ」と感心するほどだった。もうひとつ驚かされたのはこれら主要キャラクターたちが、戦闘を重ねるたびに顔が血や泥でどろどろになり、衣装すら汚れてゆくという設定だ。これは休憩によりリセットされるが、いかに熾烈な戦闘を潜り抜けているのか、非常に分かり易い演出だった。

ゲーム世界のビジュアルはこういったジャンル同様ファンタジックなものだが、「それがなぜファンタジックなのか、そもそもここはなぜファンタジー世界なのか」ということを後に説明している部分に凄味がある。それは「ファンタジーとはなんなのか」ということでもあり、同時に「ファンタジーと現実との乖離の残酷さ」すらも描き出しているのだ。そして劇中流れるテーマ曲の、哀切に満ちた旋律がまたしても美しく、ゲーム体験をいやが上にも高めさせる。こういった部分も含め、本作は間違いなく現代RPGの金字塔の一つとして記憶されるべき名作だろう。


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