再び、ブライアン・フェリーの季節。【後編:全アルバム紹介】

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前回に引き続き『再び、ブライアン・フェリーの季節。』、その後編となる。この後編ではザックリとフェリーさんのソロ・アルバムの数々を年代順に紹介してみようと思う。

フェリーさんのソロ・アルバムは個人的に思うに3期に分かれると思う。それはカバーソングを中心としロック展開させていた前期、ロキシー・ミュージック解散前後の脂の乗った時期であった中期、老境に入りジャズアレンジアルバムを出し始めた後期である。それと併せライブアルバム等も紹介する。

スタジオ・アルバム (前期)

『愚かなり、わが恋』 - These Foolish Things (1973年)

フェリーさんのソロ第1弾は最初からその方向性を明確に打ち出したアルバムとなっている。それはアルバム全体がカヴァー曲であり、なおかつフェリーさん独自の解釈でもって生まれ変わらせたものであるということだ。ロックのみならずオールディーズの名曲をヘナヘナと歌うその様は、ロックなのかなんなのか分からなくなってしまうのだが、実はこの批評性こそがフェリーさん流のロックであるという事なのだ(単なる変態さんなのかもしれないが)。1曲目ボブ・ディランのカヴァー「激しい雨が降る」からフェリーさん節炸裂、むしろ原曲よりも親しみやすく歌詞の切迫さが伝わってきはしないか。逆にオレはこの曲を聴いて「ボブ・ディランの詩って凄い」と驚愕したぐらいなのだ。


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『アナザー・タイム・アナザー・プレイス(いつかどこかで)』 - Another Time, Another Place (1974年)

ソロ2作目は1作目の「デラックス版」である。より演奏はしっかりし歌声には深みが増し、曲それぞれに強い陰影がもたらされてる。そしてこの辺りから「伊達男のふりをした怪しいおっさん」のルックスで攻めまくるフェリーさんだ。タキシード着てオールディーズ歌っていったいどこがロック?いいやそうではない、「ロックとはこういうもの」という固定観念を全部裏返したところにフェリーさんの曲はある。さすがひねくれ者の英国人だけある。ちなみにアルバムジャケット写真はアラン・レネ監督の映画『去年マリエンバートで』を意識したものだという。


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『レッツ・スティック・トゥゲザー』 - Let's Stick Together (1976年)

ソロ第3弾はアルバム未収録曲、シングル曲、ロキシー・ミュージック曲の再演など、言ってみれば寄せ集めの企画盤といった内容なのだが、デコボコしている分フェリーさんの変態的な曲作りの在り方が伝わってきて嫌いになれないアルバムだ。七三頭にちょび髭生やしスーツ姿でクネクネ踊るという、カッコイイんだか悪いんだかわからないフェリーさんのキャラクターが明確になったアルバムでもある。ちなみにちょび髭はこの時だけのようだ。


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『イン・ユア・マインド(あなたの心に)』 - In Your Mind (1977年)

ソロ第4弾はこれまでの「変なおじさん」路線を後退させ、よりストレートにロックっぽくして見せたアルバムだ。そういった部分で「ロック的に分かり易い」作品という事もできる。音的には中期ロキシー・ミュージックのパワフルな音と通じる部分もあるが、それよりもアメリカン・ロック的な日向臭い明快さを感じ、個人的にはちょっと戸惑ってしまったのは否めない。


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『ベールをぬいだ花嫁』 - The Bride Stripped Bare (1978年)

Bride stripped bare

Bride stripped bare

  • アーティスト:FERRY BRYAN
  • UNIVERSAL spa - Italia
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フェリー・ソロの中では地味目な作品であり、キャリア的にも私生活においても低迷期であったようだが、それでもこのアルバムが無視できないのは、フェリー・ソングの名曲の1つとして挙げられるであろう「Can’t Let Go」が収録されていることだ。「(この嵐の中)君を行かせられない、(逃げることも隠れることもできない場所で)君を行かせられない」と繰り返し歌うこの曲の恐るべき切迫感、尋常の無さは、愛の無常に追い詰められた者の狂気さえ感じさせる。そしてこのアルバムは中期フェリー・ソロへの橋渡し的作品でもあるのだ。


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スタジオ・アルバム (中期)

『ボーイズ・アンド・ガールズ』 - Boys And Girls (1985年)

ボーイズ・アンド・ガールズ

ボーイズ・アンド・ガールズ

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『アヴァロン』を完成させロキシー・ミュージックが解散した後のこのソロ作品は、『アヴァロン』の延長線上にある透徹した完成度を持ち、もちろんフェリーさんのキャリア頂点にある最高傑作と言っても過言はないだろう。ダンサンブルでシンプルに徹しながらも細かな音のトリートメントに余念がなく、ヨーロッパの憂愁に満ちたメロディは静かに心を揺さぶるだろう。特に『Slave To Love』『Don’t Stop The Dance』はいつ聴いても強力な酩酊感を持つ名曲だと思う。また、ここからの中期フェリー・アルバムは、美しく物憂げなメロディが特徴となるヨーロピアン・シンセ・ポップの片鱗もうかがう事ができる。


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『ベイト・ノワール』 - Bête Noire (1987年)

前作『ボーイズ・アンド・ガールズ』に強い手応えを感じ、同様な形で練りに練ったサウンドワークで制作された作品だが、逆にいじくり過ぎて迷宮化してしまった作品だともいえる。どの曲も完成度が高く『ボーイズ・アンド・ガールズ』よりもエモーショナルだとも言えるのだが、アルバム1枚聴き終えると妙に疲れるのだ。だから聴き流す程度のフィーリングで聴いたほうが楽しいという、緻密な音作りに対して逆説的な聴き方が正確な可哀そうなアルバムデアはある。


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『タクシー』 - Taxi (1993年)

タクシー

タクシー

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『アヴァロン』『ボーイズ・アンド・ガールズ』と破竹の勢いだったフェリーさんも息切れしてしまったらしく、ここでまた一度立ち止まりカヴァーソング集を出すことになったわけである。すると、これがいい。考え過ぎず捏ね繰り回し過ぎず、いつものフェリーさんらしくカヴァーに没頭できたことが功を奏したのだろう。オレはどの曲もお気に入りで、アルバム自体もフェリー・ソロの中で群を抜いて好きだ。なにしろ表題曲『Taxi』の、ひたすら弛緩し緩く緩く悲しみに沈んでゆく曲調がたまらなく好きだ。「タクシーよ、彼女の元に急いでおくれ」という歌詞にもかかわらず、曲はまるで急いでいる体ではなく、もはや「彼女の元」に行くことを諦めてすらいるように感じる。これが「フェリー・アレンジ」の妙味だ。しかもこの曲、よく聴くとレゲエなのだ。


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『マムーナ』 - Mamouna (1994年)

フェリーさんはロキシー時代から「ヨーロッパ退廃の美学」を追求する人でもあったが、この『マムーナ』はその結実点にあるアルバムではないかと思う。アルバム全体を通し、暗く淀み、にもかかわらず憂愁の美しさに包まれているのだ。あえてメリハリを排し、アトモスフィアの醸造に徹している部分は、ブライアン・イーノ参加のせいもあるかもしれない。それにしても『アヴァロン』において「もうこれ以上のものはない」と愛の成就を高らかに歌い上げた人が、この『マムーナ』では出口のない陰鬱に飲み込まれている。この辺りの気分的浮き沈みの激しさがフェリーさんらしくもあり、ファンとして共感できる部分でもある。


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スタジオ・アルバム (後期)

『アズ・タイム・ゴーズ・バイ - 時の過ぎゆくままに』 - As Time Goes By (1999年)

AS TIME GOES BY

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「ブライアン・フェリー、スタンダード名曲を歌う」というアルバムである。もともとカヴァー曲を得意とするフェリーさんではあるが、ここでは従来の「フェリー・アレンジ」は影を潜め、スタンダードをスタンダードらしく古色蒼然とした曲調で歌っている。単なる懐古趣味ということなのだが、「ボクももう十分歳取っちゃったからあとは好きなことばかりやっていようかな」という開き直りなのだろう、それはそれでいいのかもしれない。


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フランティック』 - Frantic (2002年)

前作でとことん趣味に走ったので「今回はちゃんとロックっぽいことしようかな」ということで製作されたアルバムである、と思う。いつもの、仕事してるフェリーさんの曲ばかりではあるが、「いつもの」過ぎて驚きが無く、加えて声質が顕著に衰えてきており、全体に勢いがない。そういった部分でこれもあまり愛着のないアルバムではあるなあ。


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『ディラネスク』 - Dylanesque (2007年)

ディラネスク

ディラネスク

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今回個人的「ブライアン・フェリー再発見」の元となったアルバムである。「さ、前回はお仕事ちゃんとこなしたから今回はまた趣味に走るぞお!」というフェリーさん(分かり易い)、なんと今作は全編ボブ・ディランのカヴァーで占められた、いちアーティストとしてはある意味空前絶後と言ってもいいアルバムなのだ。趣味ここに極まれりである。しかし、1stソロからボブ・ディラン・カヴァーを歌い続けてきたフェリーさん、ぬかりは一片たりともなく、実は相当に完成度の高いアルバムである。心から敬愛するディランのカヴァーを手掛けるだけに全ての「ツボ」を心得ているのだ。演奏も歯切れがよくフェリーさんのヴォーカルも元気がいい。「おじいちゃんはまだまだイケるぞお」という意気たっぷりである。


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オリンピア』 - Olympia (2010年)

オリンピア

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「趣味の次はお仕事」ということで(律儀)、オリジナルアルバムである。ジャケットにスーパーモデル、ケイト・モスを起用し、例によって「おじいちゃんはまだまだイケるぞお」と怪気炎を上げるフェリーさんのガッツポーズが目に見えるようである。しかしやはり前回の「お仕事アルバム」『フランティック』同様、フェリー・ミュージックの再生産を行っているばかりで、それほど新鮮味はない。悪いアルバムではないだが、これもあまり聴かないんだよなあ。


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『ザ・ジャズ・エイジ』 - The Jazz Age (2012年)

Jazz Age

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フェリーさん趣味アルバムシリーズ、今回は遂に「ブライアン・フェリー・オーケストラ」なるものを立ち上げ、20年代古典ジャズ・エイジ風味のアレンジを施したロキシー・ミュージック/フェリー・ソロ曲を演奏している。なにしろどの曲もあえて古色蒼然としたアレンジとなっており、風雅と言えば風雅だが、個人的にはまるで興味を覚えず、あまり通して聴くことがない。


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『アヴォンモア』 - Avonmore (2014年)

ルーティンとなった「趣味の次はお仕事」アルバムではあるのだが、実はこれが非常に良い出来なのだ。確かに『フランティック』『オリンピア』同様、『アヴァロン』『ボーイズ・アンド・ガールズ』的ゴージャス・サウンド展開を見せる作品ではあるのだが、演奏陣がよりタイトかつ技巧的になっており、全体的に澄んだサウンドを聴かせてくれるのだ。また、声質は相変わらず衰えたものではあるにせよ、その声質に合わせたキーの曲作りをしているように思える。無理を感じないのだ。これはプロデュース的な音響サポートもあるのだろう。楽曲も抜きんでており、後期フェリー・アルバムの最高傑作と言っていいだろう。


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『アヴォンモア:ザ・リミックス・アルバム』-Avonmore: The Remix Album (2016年)

Avonmore: The Remix Album

Avonmore: The Remix Album

  • BMG Rights Management (UK) Ltd.
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前作『アヴァンモア』のクラブ・アレンジされたリミックス曲集である。これはDL版しかリリースされていないようだ。そしてこれがまたもやいい。もともとオレはクラブ・ミュージックが好きなのだが、ここに収録されたどの曲も遜色ないクラブサウンドでありダンス曲であり、同時にフェリーらしさが縦横に漂うヨーロッパ的憂愁の美を兼ね備えているのだ。実は今回の「ブライアン・フェリー再発見」において最もよく聴いているのがこのアルバムだ。それにしてもフェリー曲はクラブ・アレンジが似合うな。


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『ビター・スイート』- Bitter-Sweet (2018年)

BITTER-SWEET/DELUXE ED

現在フェリーさんの最も新しいアルバムとなるのが2018年リリースの今作である。そしてなにしろ「お仕事の後の趣味アルバム」であり、「ジャズ・アレンジ版ロキシー&ソロ第3弾」である。今作は割とヴォーカルもフィーチャーされ、アレンジ自体も以前のような霞がかかったような音ではなくクリアーで、そういった若干の意趣変更もあるようだが、どちらにしろ「おじいちゃん楽しそうだね」と微笑んで聴いてあげるような作品である。


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ライヴ・アルバム

 『ライヴ・イン・ヨーロッパ 2015』- Live 2015 (2019年)

Live 2015

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ブライアン・フェリー、2015年ヨーロッパツアーのライブ盤である。実は長きに渡るキャリアの中でフェリーさんのライブアルバムはこれが初めてとなる。曲はソロ曲、アレンジ曲、ロキシー曲と順当に収録され、CD2枚組に渡ってたっぷり楽しむことができる。ベスト盤とは違うライブならではの面白さ、躍動感というのがあり、フェリーファンなら持っていていいアルバムではないか。録音もいい。


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『ライブ・アット・ローヤル・アルバート・ホール 1974』- Live At The Royal Albert Hall 1974 (2020年)

Live At The Royal Albert Hall 1974

Live At The Royal Albert Hall 1974

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これはびっくり、フェリーさんの1974年ロイヤル・アルバート・ホールのライブを収録した貴重アルバムの登場だ。1974年というと初期のフェリー・ソロ『愚かなり、わが恋』『アナザー・タイム・アナザー・プレイス』のリリース後、ロキシーは3枚目『ストランデッド』リリース後であり、すなわちフェリーが最も若々しく勢いがありヤンチャ盛りだった頃の時期を真空パックしたかのような演奏が聴けるのだ。殆どの曲はソロ曲から、ロキシー曲は一曲のみだが、初期フェリー・ソロに相当の思い入れがあるオレとしては、大好きなあの曲この曲が連打のように飛び出し、実に嬉しいアルバムだった。


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『ライヴ~ローヤル・アルバート・ホール 2020』- Royal Albert Hall 2020 (2021年)

Royal Albert Hall 2020

Royal Albert Hall 2020

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アルバムタイトル通り「2020年ロイヤル・アルバート・ホールでのライブ」を収めたものだが、前回リリースした「1974年ロイヤル・アルバート・ホールでのライブ」と呼応した形になっているのが面白い。確かに既に「2015年ライブ」もリリース済みだし間隔が近すぎるようにも思えるが、実はかの新型コロナによって中止を余儀なくされたライブの演奏メンバー救済目的であるのらしく、1枚組なのに3600円余りという高額アルバムなのだが、寄付と思って購入するのが吉。それと今作で面白かったのは、声質の衰えたフェリーさんの為にバックコーラスがユニゾンでヴォーカル参加し、ヴォーカルの弱さを補っていた部分だろうか。フェリーさんももう75歳、無理をせずに活躍し続けて欲しい。もう隠居されてもいいし。


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 日本特別企画盤 

『ガール・オブ・マイ・ベスト・フレンド・アンド・レア・トラックス』- Girl Of My Best Friend (1993)

ガール・オブ・マイ・ベスト・フ

ガール・オブ・マイ・ベスト・フ

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アルバム『タクシー』からリリースされた3枚のシングル曲とそれ以前にリリースされたシングル曲B面、それと多数のライブ曲で構成された日本独自編集盤。『タクシー』自体は陰鬱な緊張感の漂うアルバムだったが、このアルバムは逆に落ち着いた解放感に満ちた曲が並んでおり、非常にリラックスして聴けるという点で「寄せ集め」に止まらない愛着を感じさせるアルバムとなっている。アルバム未収録曲もあり、これはこれで必携なのではないか。


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