Bill Evans Trio『Haunted Heart: The Legendary Riverside Studio Recordings』を聴いた

Haunted Heart: The Legendary Riverside Studio Recordings / Bill Evans Trio

ホーンテッド・ハート:ザ・レジェンダリー・リヴァーサイド・スタジオ・レコーディングス (3枚組)(UHQCD)

マイルス・デイヴィスと並んでオレが「最もよく聴いた」ジャズ・ミュージシャンはビル・エヴァンスになるだろう。改めて紹介するまでもなく、ビル・エヴァンスBill Evans, 1929年-1980年)は20世紀のジャズにおいて最も影響力があり、愛され続けているジャズ・ピアニスト、作曲家の一人だ。

彼のその30年に渡る音楽活動の中で黄金期となるのは、1959年末から1961年まで活動していたビル・エヴァンス・トリオ(ファースト・トリオ)の頃となるだろう。ベースにスコット・ラファロ、ドラムにポール・モチアンが参加したこのトリオは、『ポートレイト・イン・ジャズ』、『エクスプロレイションズ』、『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』 、『ワルツ・フォー・デビイ』といった、誰もが知る綺羅星の如き名盤を生み出しているのだ。

ビル・エヴァンス・トリオは、ビル・エヴァンスの音楽的個性が最も美しく開花した時期であり、同時にジャズにおける「ピアノ・トリオ」の歴史を塗り替えた革命的な存在として位置づけられている。

その彼らのスタジオ録音音源を完全収録したのがこの『Haunted Heart: The Legendary Riverside Studio Recordings』となる。具体的には、アルバム『ポートレイト・イン・ジャズ』と『エクスプロレイションズ』に加え、さらに25曲の別テイク&アウトテイク(うち17曲は未発表音源)を収録し、さらにオーディオ修復と新規リマスターを採用したのが本作なのだ。CDでは3枚組、全43曲、220分に渡る演奏が収録されている。

やはり聴きどころとなるのは2枚のオリジナル・アルバム、『ポートレイト・イン・ジャズ』と『エクスプロレイションズ』では聴けなかった、大量の未発表別テイクだろう。

まずエヴァンスが曲の解釈をどう洗練させていったのか、テイクごとに比較して追体験できる。伝説となったヴィレッジ・ヴァンガードのライブ(1961年6月)に向かうまでに、このトリオがスタジオでどのようにラファロの革新的なベースを取り込み、対話的な演奏スタイルを確立していったのか、その初期の姿を垣間見ることができる。

また、エヴァンスの代名詞ともいえる重要曲について、複数のテイクを比較して聴くことができる点も興味深い。例えば 「Witchcraft」では、1959年の最初のセッションでの演奏から、トリオがどのように曲にアプローチしたかの違いが明確に分かる。彼が最も大切にした曲の一つである「Nardis」では、テイクごとの雰囲気の違いや、ラファロのベースラインの試行錯誤が際立っている。

ビル・エヴァンスの曲は、繊細に過ぎるように感じられて、時折持て余してしまうことがあるのだが、この3枚組のアルバムでは、延々と続く平穏さと落ち着きを感じて、ひたすら心が和むのだ。もうこの音に、この音を聴いている時間にずっと浸っていたい、そんな気分にすらさせられる。そんなものだから、このアルバムを購入してから、CD3枚分の音源をずっとリピートして聴きながら生活している。ビル・エヴァンス・トリオの『Haunted Heart』は、ある意味聴く精神安定剤なのかもしれない。


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