最近読んだコミック:『MATSUMOTO』『金正日の誕生日』他

■MATSUMOTO/LF・ボレ, フィリップ・ニクルー, 原 正人

MATSUMOTO (G-NOVELS)

かつて日本を震撼させたカルト教団オウム真理教をフランス人漫画家が描くバンドデシネ作品がこの『MATSUMOTO』だ。オウム真理教は様々な恐るべき事件を引き起こしたが、この作品ではその最初のものとなる松本サリン事件をクローズアップして描くことになる。すなわちタイトル『MATSUMOTO』は事件のあった長野県松本市麻原彰晃の本名である松本智津夫にかけたものなのだ。それにしても物語がいきなりオーストラリアから始まることに驚いた。ここにオウムのサリン研究施設があったということなのだが、これは知らなかった。その後も物語は教団の洗脳やテロの下準備に暗躍する教団メンバーなどが描かれるが、うっすらと記憶にあったこれらの事実も、こうしてコミックの形で読むと実に具体的な形として眼前に提示され、改めてその恐ろしさを知ることとなった。また、松本サリン事件に特化したこの物語は、その捜査の初動の遅さゆえに後の大きな悲劇を巻き起こしたことを看過しており、短い物語ながら非常に重要なポイントを突くことになっていたと思う。今更、ではなく今だからこそ、こうして読む事の意義を感じた作品だった。 

MATSUMOTO (G-NOVELS)

MATSUMOTO (G-NOVELS)

  • 作者:ボレ,LF
  • 発売日: 2017/02/17
  • メディア: コミック
 

 金正日の誕生日/オーレリアン・デュクードレ, メラニー・アラーグ, 原 正人

金正日の誕生日 (G-NOVELS)

金正日の誕生日』は金正日が最高指導者の地位に就いた時代の北朝鮮の現実を生々しく描いたバンドデシネ作品だ。主人公は8歳の少年ジュンサン、彼は北朝鮮の反米・反資本主義教育に骨の髄まで浸りながら、貧しいながらも優しい父母、姉のいる家庭で健気に生きていた。しかし、旱魃による食糧不足は一家を餓死寸前まで追い込み、遂に彼らは脱北を図ることになる。そしてその後続くおぞましいばかりの地獄絵図がジュンサンをひたすら追い詰めてゆくのだ。北朝鮮における一般家庭の窮乏は耳にすることはあるが、こうして物語として目の当たりにすると、その恐ろしさは想像を絶するものがあった。家族の離散、強制労働、暴力と密告と夥しい死、ここで描かれるのは北朝鮮という名の血も凍るような陰鬱な監獄だ。物語は少年の視点で描かれ、グラフィックも優しく馴染みやすいものだが、だからこそこの世界で生きる事の悲劇と恐怖が否応なく伝わってくる。そして、ただ単に悲惨で終わるだけではないことがこの作品を長く記憶に残るものとして完成させている。

金正日の誕生日 (G-NOVELS)

金正日の誕生日 (G-NOVELS)

 

 西遊妖猿伝 西域篇 火焔山の章(1)/諸星 大二郎

西遊妖猿伝 西域篇 火焔山の章(1) (モーニング KC)

西遊妖猿伝 西域篇 火焔山の章(1) (モーニング KC)

 

 諸星大二郎の大河伝奇コミック『西遊妖猿伝』、なにやら新章なのらしい。この作品、どのくらい大河なのかというと1983年から描き始められてまだ続いている程なのだが、遅筆と中断があって37年経っても単行本はこれ含め17巻しか出ていないのだ!構想では完結済みの第1部大唐篇(全10巻)、現在進行中の第2部西域篇(現在7巻)のあと第3部天竺篇があるらしいのだが……作者存命中に終わるのか、というよりオレが存命中に終わるのか!?余談ばかり書いたがこの巻でも物語最高です。

■水木先生とぼく/水木プロダクション

水木先生とぼく (怪BOOKS)

水木先生とぼく (怪BOOKS)

 

水木しげるのアシスタントを40年勤めたという村澤昌夫のコミック『水木先生とぼく』は水木センセと永らく付き添った作者との数々の思い出を描き綴ったもの。そしてこれが絵のタッチも物語口調も鬼気迫るほど水木先生そのままで、作者にはこのまま水木プロで水木的コミックや妖怪画を出し続けて欲しいなと思うし、まだまだエピソードはたっくさんあると思うから続編も是非描いて欲しい。

GANTZ:E (1)/花月

GANTZ:E 1 (ヤングジャンプコミックス)

GANTZ:E 1 (ヤングジャンプコミックス)

  • 作者:花月 仁
  • 発売日: 2020/08/19
  • メディア: コミック
 

作画・花月仁の手により奥浩哉原作の 『GANTZ』を江戸時代を舞台に描いたコミック。最初全然期待していなかったのだがこれが結構イイ。絵も悪くないし展開のスピード感やゴア表現も本家にひけをとっていない。少なくとも『GANTZ:G』なんかより全然いい。主人公の動機が単純なのもいい。これは期待できるか? 

■GIGANT (6)/奥 浩哉

GIGANT(6) (ビッグコミックス)

GIGANT(6) (ビッグコミックス)

 

巨大化したAV女優がモンスターと戦う!?という大バカコミック『GIGANT』、この巻では例によって奥浩哉お得意のダラダラしたロマンス展開と生々しいセックス描写が垂れ流され(それも無意味な大ゴマで)、いつも通りの無内容さなのだが、オレくらい長く奥浩哉ファンやってると「いつもだいたいこんなもんっすよー次巻あたりでグロいモンスター対決あるんじゃないっすかね?」と余裕で読んでいられるのである。 

いとしのムーコ (16)/みずしな孝之

いとしのムーコ(16) (イブニングKC)

いとしのムーコ(16) (イブニングKC)

 

柴犬ムーコと飼い主小松さんとの心温まる触れ合いを描くアニマルコミック、毎回楽しく読んでいてこれが永遠に続いてくれればいいのに、と思ってたのに、次の17巻で完結ですか!?なぜ!?なぜなの!?