最近読んだコミック/『貼りまわれ!こいぬ』『川尻こだまのただれた生活』他

貼りまわれ!こいぬ/うかうか

Webコミック『小犬のこいぬ』で全オレを虜にした「うかうか」さんによる、もう一つのWebコミック『貼りまわれ!こいぬ』が単行本化されたのでこいぬファンのオレは早速入手し読みまくったのである。お話は職を失い途方に暮れるこいぬが「街のいたるところに犬のステッカーを貼りまわる」という謎の職業を見つけ、毎日律儀にステッカーを貼り続けてゆく、というものである。

ステッカーを貼ることで起こる出会いや失敗、思いもかけない出来事などを通し、成長してゆくこいぬの様子を愛でるのがこの物語なのである。こいぬの見た目や、マイペースでちょっとドンくさいこいぬが残念な失敗を繰り返しながら健気に生きてゆく、といった内容は『小犬のこいぬ』と同じなのだが、この『貼りまわれ!こいぬ』は1話ごとにストーリー展開があるという部分で違っている。

とはいえ、そもそも何のためにステッカーを貼るのかがよく分からないし、それがなぜ職業になるのかもよく分からないという部分で、常にナンセンスな雰囲気に包まれている物語だ。果てしなく無意味なことを意味ありげに繰り返してゆくことの奇妙さを描き可笑し味を生み出してるのだが、しかし無意味なことなのにも関わらず周囲のいぬたちはそれに意味を見出し、そして自らの意識を変えてゆくのである。

こういった部分に哲学的な感触を覚えるのだが、まあ作者はそこまで狙ってはいないとは思う。どちらにせよこいぬは相変わらずドンくさくて楽しいし、おまけに単行本には物語で使われていようなステッカーが綴じてあるので、みんなも買って読むといいのである。

川尻こだまのただれた生活 (1)(2)/川尻こだま

こちらもWebで人気を集めている川尻こだまのWebコミックである。川尻こだま、最初はTwitterリツイートされてくる「不摂生漫画」で知ったのだが、コミックでまとめて読んでこの主人公が女性であることを知りびっくりした。実は「頭の天辺が禿げた小太りの青年」だと思っていたのである。そしてこの主人公は河童的な何かであるらしく、だから頭に皿があり甲羅も背負っているのだが、これは作者名「川尻こだま=川 尻子玉」から来ているということなのだろう。

女性が不摂生な限界メシを食らう漫画は別にこれが最初ではないだろうが、それにしても思い切りよく限界しまくっていて、大いに笑えてしまうのだ。そしてこの面白さは単に主人公がだらしない生活とビンボ臭い食生活を送っていることの可笑しさではなく、それを漫画として描く時の作者の着眼点と表現力の豊かさに負うものが大きい。それは生活のどうでもいいような細かいことに着目し、それを自虐的な笑い話として脚色し、さらに読者に共感を生むことができるセンスだろう。これは泉昌之西原理恵子にも通じる優れたギャグ漫画センスだと思う。

多分作者の本職が修羅場を迎えると生活が限界点に達し、その部分を面白おかしく描いたのがこの漫画なのだろう。それなりに収入もありそうだし、普段は割と普通の食生活をしているんじゃないだろうか。なおAmazonでは【第一集: 「いなげやの話 他」】【第2集: 「町中華の話 他」】がリリースされているがどちらも無料になっている。

侵略円盤キノコンガ/白川 まり奈

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ネットの一部で「カルト漫画」と評され、高値で取引されていた白川まり奈のSF怪奇漫画『侵略円盤キノコンガ』である。このたびまんだらけにより復刻され、「いったいどんな具合にカルトなのか」と興味を抱き入手してみた。物語は「謎の円盤によって持ち込まれた宇宙キノコに寄生され、人々が次々とキノコ人間と化してゆく」という人類破滅テーマのSF作品となっている。初出は1976年、流石に時代を感じさせる古臭い絵柄だが、身の回りの人々がグロテスクな菌類と化し、次第に世界が崩壊してゆく様を黒く暗くおどろおどろしい筆致で描く本作からは、作者の並々ならぬ熱意を感じることができる。そういった部分で日野日出志的なレトロな怪奇風味を味わうのが本作の楽しみなのかもしれない。また、本作は映画『マタンゴ』『吸血鬼ゴケミドロ』、諸星大二郎『生物都市』の亜種といった比較が為されているが、オレなどは小室幸太郎の『ワースト』の絶望感を思い出してしまった。あと作者名が女性名だが、表紙折り返しの作者近影ではしっかり男性で、それが一番ビックリした。

GIGANT(8)/奥浩哉 

巨大化したAV女優がモンスターと戦う!?という大バカコミック『GIGANT』の第8巻、今度はランドセル背負った半裸の未来人軍団が巨大化して加勢し、ビジュアルがさらにカオスと化していて大いに楽しめる。対する巨大モンスターも『GANTZ』譲りの不気味さ凶悪さを見せつけており、戦いが常に絶望的で熾烈なものへとなだれ込んでゆく様は作者の本領発揮と言えるだろう。このままどんどん描いていってください。

GANTZ:E (2)/奥浩哉 (原作)、花月仁 (著)

作画・花月仁の手により奥浩哉原作の 『GANTZ』を江戸時代を舞台に描いたコミック第2巻。第1巻は時代設定の面白さからちょっと注目したのだが、いよいよ星人との戦いが始まるこの巻を読むと、残念ながらアクション展開における作者の描写力不足が露呈し、退屈な作品になってしまっている。逆にこれを読むと奥浩哉の原作がいかに優れていたかを再び思い出してしまうことになった。