『Mr.ノーバディ』は無双系オヤジアクションだったッ!?

Mr.ノーバディ (監督:イリヤ・ナイシュラー 2020年アメリカ映画)

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「冴えないおっさんが世の悪逆非道に遂にブチ切れ、 暴走列車のごとくチンピラどもをブチのめしてゆく!」というスーパーバイオレンス・ムービー、『Mr.ノーバディ』です。主演にTVシリーズ『ベター・コール・ソウル』のボブ・オデンカーク、共演に『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のクリストファー・ロイドと『ワンダーウーマン』のコニー・ニールセン。監督は『ハードコア』のイリヤ・ナイシュラー。また、この作品は『ジョン・ウィック』脚本家デレク・コルスタッドと製作デビッド・リーチが参加していることで話題を呼んでいるんですな。今回は多少ネタバレあり注意。

郊外にある自宅と職場の金型工場を路線バスで往復するだけの単調な毎日を送っているハッチは、地味な見た目で目立った特徴もなく、仕事は過小評価され、家庭では妻に距離を置かれて息子から尊敬されることもない。世間から見ればどこにでもいる、ごく普通の男だった。そんなハッチの家にある日、強盗が押し入る。暴力を恐れたハッチは反撃することもできず、そのことで家族からさらに失望されてしまう。あまりの理不尽さに怒りが沸々とわいていくハッチは、路線バスで出会ったチンピラたちの挑発が引き金となり、ついに堪忍袋の緒が切れる。

Mr.ノーバディ : 作品情報 - 映画.com

主人公ハッチはどこにでもいるようなパッとしないおっさんで、地味な仕事を地道にこなし、家族にも空気のように扱われ、何が面白くて毎日生きてるんだかよく分からない男です。そんな彼がある事をきっかけにバイオレンスに満ちた世界に足を踏み入れてゆく、というのがこの物語です。映画では血まみれの格闘戦は言うに及ばず、カーチェイスや銃撃戦まで描かれ、それはクライマックスに向けてどんどんとエスカレートしてゆきます。キレたオヤジがキレッキレに暴れまわるその様は大いなるカタルシスを与えてくれること必死、観てスッキリのド派手なアクション映画として完成しています。

しかし最初、映画『フォーリング・ダウン』のような「些細なストレスを溜めまくった平凡な中年男が”もうやってらんねえ!”と遂に爆発するミドルエイジ・クライシス映画」と思って観始めたのですが、実際はどうもちょっと違うんですね。実はこの主人公、伝説の元特殊工作員「ノーバディ」であり、今は引退して過去を隠蔽し家族を作って平凡な生活を謳歌していた、という設定なんですよ。つまりこの作品、『96時間』や『イコライザー』でお馴染みの「怒らせたオヤジは実は無敵のエージェントだった!」という「無双系オヤジアクション」の作品だったんですね。

この「無双系オヤジアクション」としては実に『ジョン・ウィック』ぽい作りになっており、それは『ジョン・ウィック』チームが参加していることからも一目瞭然です。「復讐」の名のもとに主人公とロシアン・マフィアが殲滅戦のごとき全面戦争へと突入し、主人公が凄まじい戦闘スキルにより次々に敵を撃破してゆくという物語の流れは『ジョン・ウィック』の傍流亜種と言ってもいいぐらいです。ただし『ジョン・ウィック』と違うのは「家族の存在」であり、さらにこの「家族の存在」が物語に別の展開を生み出してゆく部分で差別化が成されているんですね。

そういった部分で「無双系オヤジアクション上等!」と取るか「なーんだまた無双系オヤジアクションか」と取るかで評価は分かれるかもしれません。オレ自身は「また無双系オヤジアクションかとは思ったがこれはこれで面白かったからいいや!」って感じでしたかね。ゾンビ映画やサメ映画みたいに「無双系オヤジアクション映画」というジャンルなんだと思って楽しめばいいんじゃないでしょうか。

しかしこの「無双系オヤジアクション」、主人公がオヤジに限らず最近意外とポツポツと作られているように感じるんですが、いったいなんなんだろうなあと思うわけです。実際オレも好きなジャンルだし面白く観ているんですが、ここまでジャンルとして流行ってるのは何故なんだろうと。日本のラノベでは異世界転生して「強くてニューゲーム」的なチートな主人公が登場し人気を集めることが多いようですが「無双系オヤジ」も「普通の自分だが最初から強い」という部分においてチートキャラに思えるんです。

異世界転生チートキャラの隆盛についてラノベ好きの相方に聞いたところ「フィクションの中でまで苦労したくないからじゃね?」と言ってましたが、「無力の者が無力のまま戦わなければならない労苦や、労苦を積み重ね時間を掛けて強くなる」といった展開にまどろっこしさや退屈さを覚えるということなのでしょう。要するにスカッとしないんですよ。兵士や特殊工作員がいくら強くてもこれらの職業が自分のリアルと結びつかなければ感情移入が困難ですが、主人公が(出自はどうあれ)ごく普通の一般市民(でも強い)なら感情移入は容易です。そういった部分で「無双系アクション」は人気を呼んでいるのかな、とツマラン考察をちょっとしてしまいました。