スピリット・ウォーカー (監督:ユン・ジェグン 2021年韓国映画)
12時間ごとに違う人間の体で目覚めてしまう!?韓国映画『スピリット・ウォーカー』は、そんなミステリアスでSFチックなサスペンス作です。しかも主人公となるこの男、全ての記憶を失っており、なぜ自分がこんな目に遭っているのかすら分かりません。しかし物語が進むにつれ、背後に巨大な陰謀が隠されていることを知ってゆくんですね。主演を『犯罪都市』のユン・ゲサン、『LUCK-紀伊 ラッキー』のイム・ジヨン『悪人伝』のユ・スンモクが共演を務めます。監督は『ハートビート』(2011)のユン・ジェグン。
【物語】交通事故の現場で目を覚ました男。彼は全ての記憶を失っており、鏡に映る自分の顔にも名前にも違和感を覚える。しばらく経つと、男はまた見覚えのない場所で目を覚ますが、今度は先程とは違う顔だった。やがて彼は、自分の体が12時間ごとに違う人間のものに入れ替わっていることに気づく。何が起きているのか、本当の自分は何者なのか、真相を解明するべく行動を開始した彼は、いつしか自分が巨大な陰謀に巻き込まれていることを知る。
不可解な理由により目覚めると知らない体の人間になっている、という映画は韓国映画ですと『ビューティー・インサイド』という作品がありましたね(感想)。また、似たようなシチュエーションを描いたSF短編小説『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』という作品もありました(感想)。この2作はいわゆるロマンス作品なのですが、『スピリット・ウォーカー』はアクションも盛り込まれたダークなクライム・サスペンスとして完成しています。「主人公に何があったのか?」「主人公は誰なのか?」というミステリーが物語を牽引し、謎が謎を生み、そして徐々に明らかになってゆく真実に片時も目を離せません。
さらに主人公の前には彼の事を探す謎の人物、謎の組織が登場し、命すら狙われていることが明らかになります。しかし、主人公が12時間ごとに体が入れ替わっているために、「彼本人」であることを誰も気付きません。「常に他人の体」であることを利用し、主人公は徐々に真相に近づいてゆきます。この辺りのトリッキーなシナリオが面白い作品です。「事件の真相」は判明してしまうと「へえなるほど」といったそれほど複雑なものではなく、もう一捻り欲しかったところですが、全体的な作りは新鮮で野心的だと感じました。
そしてこの作品、ミステリーだけではなくアクションもちょっとしたものなんですね。特に後半からは追跡・逃走劇と激しい銃撃戦が盛り込まれるようになり、韓国映画らしい血みどろの展開を見せてゆくんです。特に銃撃戦は『ジョン・ウィック』を思わせる電光石火のスピード感で繰り広げられ、惚れ惚れさせられてしまいました。むしろミステリーそれ自体よりも、このアクションの激烈さで興奮させられた作品かもしれませんね。主人公を助けるホームレスの男はなかなかに味があり、彼の正体を知る謎の女も十分に魅力的でした。アクション良しサスペンス良し、ピリッと緊張感の効いた優れた韓国作品でした。