今更ながらスティーヴン・キングの『ミザリー』を読んだ

ミザリースティーヴン・キング

ミザリー (文春文庫)

雪道の自動車事故で半身不随になった流行作家のポール・シェルダン。元看護師の愛読者、アニーに助けられて一安心と思いきや、彼女に監禁され、自分ひとりのために作品を書けと脅迫される―。キング自身の体験に根ざす“ファン心理の恐ろしさ”を極限まで追求した傑作。のちにロブ・ライナー監督で映画化。

オレはスティーヴン・キングのファンであるが、全ての作品を読んでいるわけではない。まずあの『ダークタワー・シリーズ』は1巻しか読んでいない(なにしろその後の巻数が多くどうにも長大過ぎて読む気が萎える)。文学寄りの作品と幾つかの短編集も読んでいない。『死の舞踏』あたりのノンフィクションも読んでいないな。ホラー作品はほぼ読んでいるつもりだったが、1冊だけ有名作を読んでいなかった。それがこの『ミザリー』である。

ミザリー』はあの『IT』(1986)、ファンタジー長編『ドラゴンの眼』(1987)(そういやこれも読んでいない)の後、1987年に発表された長編サスペンスホラーだ。ちなみに『ミザリー』の次に『トミー・ノッカーズ』(1987)、『ダーク・ハーフ』(1989)が発表されている。日本では1990年に単行本が発売され、映画化作品は1991年に日本公開されている(なあに、全部Wikipedia調べだ)。

なぜ当時のオレが『ミザリー』の単行本に手を出さなかったのか覚えているわけではないが、多分粗筋から「非ホラー小説」だと思えて食指が動かなかったのだろう。その後映画化作品も観たが、楽しめた記憶はあるけれども、わざわざ原作を読み直す必要はないなと思い、そして結局最近まで至ってしまったのである。しかしどうも「読んでいない心残り」を引き摺っていて、ついこの間古本で購入(旧版、1992年第4刷)、やっと読み終わったという訳だ。

内容については今更語ることもあるまい。一応書くと、流行作家ポール・シェルダンが雪山で車の事故を起こし大怪我を負った所をたまたま彼の「ナンバーワンの愛読者」の女アニーに救出されたが、実はこの女、恐ろしいサイコパス殺人鬼で、動けないポールを監禁し、虐待と拷問を繰り返しながら「あなたが終了させた『ミザリー』シリーズの続きを書いてええええ」と迫る、というサスペンスである。

作品は主人公がおぞましい虐待を受ける様を500ページに渡り、手を変え品を変えチクチクと描きまくる。そもそも最初の数10ページですら相当にいやったらしい。最初読んでいて「この調子で500ページ続くのか?」と具合が悪くなってきたほどだ。当然主人公も脱出の策を練るが、なにしろ下半身不随状態で動きが制限されている上に、狡猾なアニーはそれを見破ると、折檻に継ぐ折檻を繰り返し、ポールは精神的にも追い込まれてゆく。いやあ、ホントに胸糞悪いお話だわ……。

面白いのは、この手の「監禁モノ」はたいてい、いたいけな少女が変態野郎に閉じ込められいたぶり続けらるというパターンが多いが、ここでは半身不随とは言え成人男性が監禁され女性にいたぶられる、という物語となっている部分だ。キングはこの物語の着想を「作家である自分をストーキングする気色悪いファンの存在」から得たようだが、それをここまで胸糞悪い物語に仕上げる部分にキングの妄想の逞しさが伺えるというものだ。さすが世界的ベストセラー作家だけある。

この原作では虐待の様子が事細かに描かれるので胸糞の悪さは映画版以上だ。さらにアニーに強要されて書くことになる「終了したシリーズの続きの作品」が作品内作品として描かれることになる。ここで描かれる作品『ミザリー』はもともとハーレクイン小説のような薄っぺらいロマンス作品シリーズなのだが、監禁されて描くことになるその新作が、なんと「シリーズ最高傑作」にまで高められてしまう、という皮肉もスゴイ。作品内ではキングらしい笑えないジョークも頻出し、単にグロテスクなだけのお話になっていない(まあそれでも十分うんざりさせられるが)。

物語への興味は虐待の様だけではなく、ポールが最後に脱出することができるのか?という部分にも当然ある。ありとあらゆる策を封じられ身も心もボロボロになりながら、それでもポールに逆襲する手段があるのか?というサスペンスで最後まで引っ張ってゆく。この辺りのストーリーテリングがやはり巧いしグイグイと読ませるものがある。

という訳でようやく懸案だったこの『ミザリー』を読み終えたのだが、なにしろとことん胸糞悪かったのは確かで、映画版だけ観て満足しといたほうがよかったかもしれない……とはちょっと思っている。逆に言うなら「胸糞悪いお話が大好き!」という方には是非お勧めしたい小説である。キングには監禁モノの変形版『ジェラルドのゲーム』という作品もあり、これも相当いやったらしい展開を見せるのでよろしければドウゾ。

ちなみにキングについては以前これらの( ↓ )記事でまとめたことがある。2008年と結構古い記事になるのだが、当時においての「キング作品ベスト」もまとめてあるので興味のある方は読んで貰えればいいかと。ただし今なら『11/22/63』が上位に出るだろうな。

ミザリー (文春文庫)

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