「ワシントン・ポー」シリーズ著者による新シリーズ『恐怖を失った男』を読んだ

恐怖を失った男 / M・W・クレイヴン (著), 山中 朝晶 (翻訳)

恐怖を失った男 (ハヤカワ文庫NV)

連邦保安官局のベン・ケーニグは頭部へ銃弾を受け、恐怖の感情を失った。さらにマフィアから懸賞金をかけられたベンは、任務に支障をきたし逃亡生活を余儀なくされる。ある日、彼は連邦保安官局に拘束され、かつての上司から行方不明になった一人娘の捜索を命じられる。死地へ向かうことを躊躇しないベンは、不倶戴天の敵ジェンと事件を追うが…。“ワシントン・ポー”シリーズ著者による新シリーズ開幕。

M・W・クレイヴンによる「ワシントン・ポー」シリーズの既訳作品を全て読み終え、その余勢をかって、作者の新シリーズとなる『恐怖を失った男』を手に取った。

主人公は、頭部に銃撃を受けたことで「恐怖の感情」を失った男、連邦保安官局(USMS)のベン・ケーニグ。彼はマフィアに懸賞金をかけられたため、社会からも組織からも身を隠していた。だが、ある事件をきっかけに、再び暴力渦巻く世界へと身を投じてゆくことになる。

「ワシントン・ポー」シリーズが、刑事ポーを主人公とした緻密なクライム小説であったのに対し、『恐怖を失った男』は、凄腕の元特殊工作員ベンを主人公とするハードなバイオレンス小説へと作風を大きく変えている。警察機構のルールに(時として逸脱しながらも)従って捜査を進めるポーと比べ、ベンは特殊工作員ならではの戦闘スキルと武器知識を駆使し、イリーガルな裏工作や殺人すらも厭わないダーティーヒーローなのだ。

とはいえ、物語は暴力的なアクションばかりではない。行方不明の娘を探すというミッションのもと、「ワシントン・ポー」シリーズを思わせるような緻密な捜査と的確な推理が並行して展開する。また、ポー・シリーズに様々な「頼れる仲間」が登場したように、本作でもベンを陰日向となって助ける協力者たちが現れ、彼と共闘してゆくのである。

短い章仕立てになっている点や、章の終わりに思わせぶりなクリフハンガーを挿入するなど、ポー・シリーズと同様の構成はここでも踏襲されている。さらに、ポー・シリーズの魅力であったリアリティ溢れる細かな知識、クレイヴン一流のトリビアがこの物語でも健在であり、そういった部分で「らしさ」が十二分に感じられる内容だ。

物語後半から炸裂しだす凄まじいアクションは、まさにこの新シリーズならではの魅力だ。ポー・シリーズが抑制の効いたクレイヴン小説だとするならば、ここでのクレイヴンはどこまでも振り切っており、まさに血沸き肉躍るといった言葉が相応しい展開を楽しむことができる。「恐怖を失った」という設定は、物語の本筋にはあまり生かせていないようにも思えるが、それを補って余りあるほど物語自体が極めて面白いため、些細な問題だろう。