風間賢二の『スティーヴン・キング論集成: アメリカの悪夢と超現実的光景』を読んだ

スティーヴン・キング論集成: アメリカの悪夢と超現実的光景/風間賢二

スティーヴン・キング論集成: アメリカの悪夢と超現実的光景

スティーヴン・キング研究の第一人者、風間賢二によるキング論の集大成! 「関心のあるパートから読んでいただいて一向にかまわないが、冒頭から順番に読み進めることで、キングの作家としての成長ぶりやテーマ、書法の変換過程が見えてくるような構成になっている。」アメリカン・ベストセラーを牽引し続けている作家の作品世界が浮き彫りに。キングをより深く理解したい人に送る、キング批評・作品論の決定版。

モダンホラーの帝王スティーヴン・キングと彼の数々の著作を、 翻訳家であり幻想文学研究家であり、一級のキング小説マニアでもある風間賢二氏が徹底時に論考したキング論集である。体裁としては風間氏がこれまで様々な雑誌に掲載した解説文や、キング小説巻末解説・訳者あとがきとして書かれたものを大幅に加筆したものとなっている。一般にはデビュー作として扱われる『キャリー』以前の作品から、日本では2020年に訳出された短編集『マイル81』『夏の雷鳴』までが網羅され、さらに巻末には「スティーヴン・キング全作品(1974~2020)紹介」が併載され丁寧なガイドの役割も兼ねている。

オレがこの著作を手に取ったのはもちろんキング小説の大ファンという事もあったが、同時にキングの話題になるといつもその名前をお見受けする風間氏の文章をまとめて読んでみたいと思っていた事もあった。しかし買い求めたそのキング論集が、キング小説並みの500ページもあるハードカバー本だったのには一瞬読むのを躊躇した。これは風間氏に「キング本並みのボリュームにしたい」という目論見があったからなのらしい。なんとまあ!ところが実際読んでみると、これがキング本並みに充実した内容を持ちつつ、キング本と同等に読み易いという、まさにファンの鑑の如き内容だったではないか!

もちろんこれはオレが結構な量のキング本を読んでおり、風間氏の取り上げるそれぞれの作品の論考に対し大いに頷ける部分と大いに教示となる部分があるからで、風間氏の展開する汲めど尽きせぬキング話・キング論考の面白さにひたすら釘付けにされた、ということがあるだろう。掘り下げ方の深さに驚嘆したのと同時に、同じファンとしてそのキング愛の在り方に共感できる部分が多々あったのだ。例えば氏がキングに開眼したキング作品が『霧』だったという部分や、キング初心者に勧める作品は『呪われた町』だという部分に、同じファンとして「だよね!だよね!分かる!分かる!」と高速で頷いていたりした。

とはいえもちろんこの本はファン本ではなく論考集である。そして、この論考が実は半端ないのだ。キング本を全読破していることは当然として、それに関連のある膨大な小説・映画・コミック、さらにこれまで書かれた様々なキング研究本を参考文献として引用しながらキング小説を論じるのだ。比較参照されるものは小説に限らず心理学であったり神話学であったり聖書であったりと非常に多岐にわたり、さらに作品の書かれたその時代時代の風俗であったり文化であったり歴史性であったりするものとの関連をも考察する。それによりこの著作はキング論の枠を超えホラー・幻想文学論としても機能しており、さらには近代文学史におけるキング小説のポストモダン的位置付けまでもが考察される実に濃厚深遠たる評論集として完成していて、風間氏のその博覧強記と文学造詣の深さにひたすら圧倒された。

さてこれだけ充実した著作である本作、ちょっと興味深いのが500ページある本文のうちほぼ5分の1が『ダークタワー』シリーズの紹介に割かれているという事だろう。もちろんこれは氏の訳した『ダークタワー』のあとがき文章がこれだけの量あっただけということではあるが、キング自身が「名ばかり高くて最も読まれていない小説」と言う程度の認知度にある作品をなぜここまで紹介するのか。オレは『ダークタワー』シリーズは1作目の晦渋さに挫折してから全くの未読なのだが、実は多くのキングファンもこの『ダークタワー』シリーズは読んでいない方が多いのらしい。なにしろ躊躇させるのはその圧倒的過ぎるヴォリューム、原著では全7巻+別巻1,2014年刊行の翻訳文庫版ではなんと全14巻!という「もう許してください」という分量なのだ。

しかし、その内容は全てのキング小説世界の中心的位置にある、いわゆる「キング・マルチバース」的なものであるという。マルチバース、最近だとDCやマーベルのアメコミヒーローが個々の作品から飛び出し同じ世界で活躍する様を見せる、というアレだ。永井豪デビルマンやバイオレンス・ジャックもマルチバース化してたよな。そんな位置にある『ダークタワー』シリーズを紹介しなければキング論としても片手落ちとなるということなのだろう。しかし読んでない。読む気も無かった。ではそうすればって、これはもう、ここまで風間氏に書かれたら読むしかないじゃないか。

ダークタワー』シリーズに限らず、この著作を読んでまだ読んでいなかった多くのキング作品を読みたくなること必至であり、オレなどは既に未読のキング本数冊を古本で購入したほどだ。もちろん『ダークタワー』シリーズも近々Kindleでまとめ買いする計画だ!あと、映画化作品も数作観直しちゃったよ!風間賢二氏による『スティーヴン・キング論集成』は、その優れた内容もさることながら、読めば必ず未読のキング本を読みたくなるという恐るべき著作であり、最終的に『ダークタワー』シリーズ全巻購入にまで人を追い込むという危険な本なのだ!いいんだよ!『ダークタワー』きっと面白いに決まってるじゃないか!