人間v.s.兎、その後の仁義なき戦い!?/映画『ピーターラビット2 バーナバスの誘惑』

ピーターラビット2 バーナバスの誘惑 (監督:ウィル・グラック 2021年アメリカ・オーストラリア・イギリス映画)

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ピーターラビット」といえば淡い水彩画調で描かれた愛らしい兎が登場する名作絵本である。作者はビアトリクス・ポター。この絵本を実写+CG映画化した『ピーターラビット』(2018)は、イギリスの風光明媚な湖水地方で今日も明るく朗らかに過ごすピーターと仲間たちの心温まる愛と冒険の物語……と思ってたらちょっと違っていた。なんとそれは、人間v.s.動物の、熾烈な戦闘を描いた作品だったのだ!?

そんな因縁の戦いのその後を描いたのが今作『ピーターラビット2 バーナバスの誘惑』である。前作で敵同士だった兎のピーターと人間のマクレガーは現在和平状態にあったが、マクレガーの心無い言動にピーターは嫌気が差し、都会に出て半グレ兎と成り果ててしまうのだ!?

ピーターの大好きなビアが、宿敵マグレガーと結婚した。父親面をしてしかりつけてくるマグレガーに嫌気が差したピーターは、生まれ育った湖水地方を飛び出して都会にたどり着く。そこで亡き父の親友だったというバーナバスと出会ったピーターは、地下組織を率いる彼から、都会で生き延びるための盗みのスキルを教わる。バーナバスに父の面影を重ね、彼に認めてもらうべく悪事を重ねていくピーターだったが……。

ピーターラビット2 バーナバスの誘惑 : 作品情報 - 映画.com 

1作目の物語の根底にあったのは、風光明媚な土地に安穏として暮らす大人たちと、そんな大人たちに嫌気と退屈さを覚える若者たちとの衝突の物語だったのだと思う。それを人間と動物に置き換え、シニカルなユーモアと過激なアクションで料理したのが1作目『ピーターラビット』だったのだ。原作絵本は読んでいないが、調べるとピーターを始めとする動物たちはいたずら好きな存在として描かれているらしく、それを拡大解釈したものであるとも言えるかもしれない。

そしてこの続編で描かれるのは、「大人はわかってくれない」とばかりに非行に走り、反社会的な悪事に手を染める若者の姿を暗喩したかのごとき物語なのだ。それを1作目同様のシニカルさと荒唐無稽なアクションで脚色し、さらに都会という新たなロケーションを得て展開するのがこの『バーナバスの誘惑』という訳である。ちなみにバーナバスとはピーターを悪事に誘うおっさん兎の名前であるが、このバーナバスには猫やらネズミやらの悪党仲間がいて、窃盗団を結成しているのだ。

反社会的な悪事とはいっても、登場するのは「半グレ化した兎!」とか「人間の食料を奪う動物窃盗団!」なわけで、そこはやはり絵本原作、実に可愛らしいものである。かくして「バーナバス窃盗団」に加入したピーターとその仲間たちは市場を狙った大強奪作戦を展開するわけだが、そこで思わぬ出来事が起こり物語はとんでもないドタバタに突入、マクレガーまで巻き込んで奇想天外な方向へと突き進み、大いに笑わせてくれるのだ。

映画では実写のロケーションと人間に、3DCGで作成された動物たちが合成されるが、そのモフモフ具合やら細かい仕草や目の表情やらが実に生き生きとしており、時々CGであることを忘れてしまいそうになるほどだ。さらに動物キャラたち全員が、可愛らしい造形とは裏腹にどうにもニクタラシイ性格をしており、非常に存在感を高めているのだ。それに対しマクレガーら人間たちはどことなく間が抜けていて、漫画チックに単純化したキャラクターとして登場し、それがさらに動物たちにリアルさを感じさせる形となっている。

とはいえ、人間v.s.動物の熾烈な抗争を、「そこまでやるのか!?」と思わせるほど過激に描いたブラックな前作と比べるなら、本作は動物たちの可笑しな冒険を描くファンタジー止まりであり、低年齢向けの作品まで後退しているかもしれない。そういった部分で若干の物足りなさは覚えたが、ある意味「いたずら兎の冒険」を描いた原作により近いのは本作だと言えるのかもしれない。また本作では利潤追求型の出版業界への皮肉もまた描かれており、別の視点が持ち込まれた部分で新しさがあったともいえる。それにしてもこの続編、まさかの007展開があろうとは!?それは観てのお楽しみということで!