■7 Hours to Go ! (監督:ソウラブ・ヴァルマ 2016年インド映画)
なんだか、チープなインド映画が観たかったのである。昨今のインド映画業界で流行っている、シリアスを気取った実録モノや、国粋主義的な作風に、かなり辟易してきた、というのがあったのだ。これらはまあ、それぞれ出来は悪くないし、面白く観れたことは観れたのだけれど、「こんな作品が観たくてインド映画観てるわけじゃないんだけどな」という気もして、一時「もうインド映画観なくていいかな」という気分にまでさせられた。
そんな時に見つけたのがこの『7 Hours to Go !』。ポスターを見る限りではアクション風だし、「7人の人質!7時間の猶予!」というアオリもなんだかやる気満々で頼もしい。ただし評価自体はアベレージがそれ以下で、賛否両論というよりも否定的な意見がかなり多い。海外レビューでは「映画自体が7時間あるような退屈さ」「違法リッピング観るのすら時間の無駄」と散々だ。わはは、相当じゃないか。だが、トレーラーを観る限りそれほど悪く無い気がした。しかも、オレの望む「安っぽさ」の臭いがプンプンする。という訳で、違法リッピングではなくてきちんとDVDを購入してオレは観てみることにしたんだ。
映画は冒頭、ハイテクビルに忍び込んだ、変なお面の賊たちが、派手な(そしてチープな)CGを使ったセキュリティを突破しつつも、最終的に銃撃戦となり、目的を果たせないまま終わるアクションシーンが描かれる。まあ掴みはバッチリといったところか。このシークエンスがなんだったのかは最後になるまで分からない仕組みになっている。
そしていよいよ本題だ。舞台はムンバイ、警官のアルジュン(シヴ・パンディト)は裁判所へと向かっていた。ここで開かれる裁判の証人で、婚約者でもあるマヤ(ナターシャ・スタンコヴィッチ)に会うためだ。しかし出会ったのも束の間、マヤは何者かに射殺され、怒り狂ったアルジュンはその場に居合わせた7人の男を人質に取り裁判所に篭城する。アルジュンは警察官マンディーニ(サンディーパー・ダール)を指名して呼び出し、彼女に実業界の黒幕カヴィール・ケムカ(ローヒット・ヴェール)を連れてこい、と要求する。そして猶予は7時間、1時間遅れる毎に人質を一人殺すと告げる。こうしてアルジュンと警察隊の攻防が始まる。
さて一見単純な人質事件に見えて、この部分はあまりに謎が多い。なによりまず、婚約者を殺された男が、なんでまたその場で人質事件を起こすのかだ。しかも、篭城に際して巧妙なバリケード、監視カメラの設置、さらに警察署内部へのハッキング、そしてドローンの携帯など、あまりに用意周到過ぎるのだ。しかもアルジュンの要求というのが、マヤを殺した犯人を出せ!ならともかく、カヴィ―ルなる怪しげな大立者の出頭、というのも妙な話だ。ここで実は最初からこの人質事件が何らかの理由に寄り予め仕組まれたものであることが分かってくる。しかもその後の捜査で、この日の裁判にマヤという女性の証人はいないということが判明するのだ。どうです、ちょっと面白そうでしょ?
しかしこの"謎が謎を呼ぶ"筈のシナリオは、なんだか荒唐無稽だし無理矢理っぽく、そもそも悪徳実業家カヴィールを呼び寄せる為にこんな派手で目立つ事件を起こす必然性をまるで感じないのだ。それに「1時間遅れる毎に人質を一人殺す」とか言っていた割には何時間経っても人質1人しか殺していない。なんだか羊頭狗肉だよなあ……と思っていたらさにあらず!実はさらに大きな目的がアルジュンにはあったのだ!いやいやいろいろひねってんじゃん!後半なんざ畳みかけるようなどんでん返しに次ぐどんでん返し!
とはいえ実の所、この辺の展開はかなり雑で薄っぺらいものであるのは確かで、相当ギクシャクしている。「さらに大きな目的」「どんでん返しにどんでん返し」とは言っても、勘の良い方ならなんとなく話が読めてしまうだろうことは否めず、それと併せやっぱりハリウッド作品あたりの既視感がどうしても感じてしまう。あるサイトを読むとこの作品は某ハリウッド・サスペンス映画にそっくりという指摘があり(ネタバレしない為タイトルは出さないが、この作品。ああなるほど!)、そういった部分でもオリジナリティが高いとは決して言い難い。
ただなんかねえ、凄く意欲とか頑張りとか感じるんだよね。けたたましい音楽や、フォントの踊る絵造りや、よく分かんないCGの使い方や、とりあえず力みまくったシナリオなんかにさ。これらは結果的にチープなものにしかならなかったが、「チープなインド映画が観たかった」というオレのニーズにドンピシャで、オレ自身は結構楽しんで観たぜ。あと相当低予算みたいなのよこの映画!カーチェイスで銃撃戦しても車のガラスは割れないし、クラッシュシーンがあっても壊れた車は写さないんだよ!どうだよ泣けてこないか!?もう応援したくなってくるだろ!?
それと全体的に俳優がよかったな。女警察官マンディーニを演じるサンディーパー・ダールは調べたら『Dabangg 2』『Heropanti』にも出演していたというし、おまけになかなかの美人ちゃんじゃないか。アルジュン役シヴ・パンディトも名前通り渋かったし、マンディーニの食えない相棒警官役や殺し屋の男も味があってよかった。こういった「有名俳優が出ていない」インド映画が逆に新鮮でイイ。あと、物語も所々でコメディタッチの演出が入ってリラックスできる。監督に才能があるとは余り思えないけど、感覚の新しさはとりあえず認めてもいい。映画『7 Hours to Go !』は別に観るべき映画でもなんでもないけど、大作名作問題作の狭間にこういった映画も無いと、やっぱりつまんないよね。