映画『ハウス・オブ・ダイナマイト』:時代錯誤的で考証の破綻した”核戦争の恐怖”

ハウス・オブ・ダイナマイト(Netflix映画) (監督:キャスリン・ビグロー 2025年アメリカ映画)

発射場所の特定されない核ミサイルがアメリカ本土へ飛来する。着弾までの僅か20分という極限の時間を、アメリカ軍事中枢部の複数の視点から活写するポリティカル・サスペンスだ。主演はレベッカ・ファーガソンイドリス・エルバ、監督はキャスリン・ビグロー(『ゼロ・ダーク・サーティ』『ハート・ロッカー』)。

本作は確かに圧倒的な緊張感を維持しており、観客を退屈させることはない。しかし、そのテーマ設定とプロットの前提には大きな疑問符がつく。核戦争の瀬戸際を描くという主題は、『未知への飛行』や『博士の異常な愛情』といった古典的名作群によって既に掘り尽くされている。それらに比肩する新たな視点や批評性を提示できていないばかりか、冷戦終結後の「現代」という設定で、発射元の不明な核ミサイルの飛来と、それに対する報復攻撃の是非という構図を持ち出すのは、時代錯誤と言わざるを得ない。現代の地政学的危機を描く焦点は、もはやそこではないはずだ。

さらに、作品の根幹をなす危機設定自体に、現実的な考証の面で大きな破綻が見られる。現代のアメリカ防衛システムにおいて、ミサイル発射場所の特定が不能な状況や、迎撃手段がたった一対のミサイルに限られるという描写は、あまりに現実とかけ離れている。さらに発射元不明の状況下で報復攻撃の是非を議論するなどという展開は、論理的に筋が通らない。そもそも報復云々ではなく、被害後の救済措置を論じるのが政治家の役目だろう。

物語はミサイル確認から着弾までの20分を3つの異なる視点から描くものの、その試みも成功しているとは言い難い。各視点が本質的に同じ状況を反復しているに過ぎず、多角的に描くことで期待される新たな情報や隠された真実が提示されるわけではないため、展開に停滞感が生まれている。この程度の情報量であれば、単一の視点に集約し、より発展性のある構成と、観客を納得させる「オチ」を用意すべきだった。

総じて、監督であるキャスリン・ビグローの”よろしくない”作風(これ見よがしでわざとらしい「センセーション」ばかりが目立つ点)は、残念ながら本作でも繰り返されているように感じられ、結果として消化不良の感が否めない作品となってしまった。


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