The Twits アッホ夫婦(Netflix映画)(監督:フィル・ジョンストン 2025年アメリカ・イギリス映画)

NetflixのCGアニメ作品『The Twits アッホ夫婦』は、悪辣ないたずらにより町を大混乱に陥れるアッホ夫婦に孤児院の少女ビーシャが立ち向かう、という物語だ。監督は『シュガー・ラッシュ:オンライン』のフィル・ジョンストン。原作は映画『チャーリーとチョコレート工場』『ジャイアント・ピーチ』の ロアルド・ダール。さらにデヴィッド・バーンによる書下ろし楽曲も盛り込まれている。
なによりこのアッホ夫婦というのがとてつもなくグロテスクだ。外見の薄気味悪さはもとより、性格はどこまでもねじくれ、不潔でいやらしく、酷薄で皮肉屋で、テロ行為まで巻き起こすサイコパス夫婦なのである。特に作品で盛り込まれる食事シーンの汚らしさには、食事中の鑑賞を決して勧めないほどだ。
一方アッホ夫婦に立ち向かう少女ビーシャは、インドないしペルシャ系の人種として描かれている部分が珍しくあり新鮮だ。彼女が孤児であることの孤独や悲しみを乗り越え、仲間と共にアッホ夫婦と戦ってゆく様は大きな共感を生むだろう。また、アッホ夫婦の玉虫色の甘言に乗せられビーシャを窮地に陥れる市民たちの行動は、昨今のポピュリズム政治を思わすものがある。
物語はアッホ夫婦のとてつもない異常さで牽引され、そこにダークでシュールなファンタジー風味が付け加えられるが、この辺りは実に ロアルド・ダール的だ。同時に、ドロドロだったりグチャグチャだったりするババっちさは、結構小さな子供にウケるようにも思う。どちらにしろ楽しいけれどもかなりブラックなアニメなのは確かだ。
カンフースタントマン 龍虎武師 (監督:ウェイ・ジュンツー 2021年香港・中国映画)

カンフー映画に関してはブルース・リーやドニー・イェンの有名作やその時の話題作を観ている程度で、それほど熱心なファンとは言い難い。とはいえ、そんなカンフー映画を支えたスタントマンたちの活躍、さらにはその大本となる香港映画界の栄枯盛衰を描いたドキュメント映画『カンフースタントマン 龍虎武師』は大きく心に響くものがあった。
インタビューを受け、その作品を紹介されるのはドニー・イェンやサモ・ハンを始めとするカンフーアクター&スタントマン、さらにユエン・ウーピンやアンドリュー・ラウ、ツイ・ハークといった有名監督たちである(ブルース・リーやジェッキー・チェンはアーカイブ映像のみ)。彼らの登場だけでも香港映画ファンは大いに沸き立つことだろう。そして彼らの演じる危険極まりない、文字通り死と隣り合わせのスタントに息を呑まされるだろう。
ただし、貧困を脱するためにどうしても体を張る必要があったというのは理解できるとしても、ここまで安全性無視で撮影が行われていた部分には、手放しで称賛できない居心地の悪さを感じた。同様に、ジェッキー・チェンの危険なスタントもオレはあまり得意ではない。これは、「そういう時代だった」としか言いようのないことだったのだろう。
中盤からはそんな香港アクションが斜陽化してゆく様子が描かれ、厳しい状況が伝えられる。そして現在、力を失った香港アクションをどう未来へ繋げてゆくのかのビジョンが映し出される。そこからは、このドキュメンタリーが決してノスタルジーだけで作られた作品ではないという、誠実さを感じ取ることができた。

