ランニング・マン (監督:エドガー・ライト 2025年アメリカ映画)

近未来のディストピア社会。貧困と格差が極限に達したアメリカで、ベン・リチャーズ(グレン・パウエル)は重い病気の娘を救うため、巨額の賞金が懸かった政府主催の残酷なリアリティショー「ランニング・マン」に参加せざるを得なくなる。この番組は、参加者が全国を逃げ回りながらハンターたちから追われるデスゲームだ。ベンは家族を守るため、メディアの洗脳と腐敗したシステムに立ち向かう。ゲームショーの司会者やハンターたちが次々と現れ、過激な追跡劇が展開される中、ベンは次第に反乱の象徴へと変わっていく。
映画『ランニング・マン』は、同タイトルのスティーヴン・キング原作小説をもとに、エドガー・ライト監督が再映画化した作品だ。最初の映画化は1987年のアーノルド・シュワルツェネッガー主演『バトルランナー』。この2作を比較すると、本作は原作にかなり忠実なアプローチを取っている点が最大の特徴だ。高額予算(約1億ドル超)とグレン・パウエルという今ホットな主演を据えながら、どこか「安っぽい」B級感を漂わせる不思議な作品に仕上がっている。
原作の『ランニング・マン』(リチャード・バックマン名義、1982年)は、キングの作品群の中でも中下位〜下位に位置づけられることが多い。1週間で書き上げたという速筆ぶりが物語るように、プロットはキレッキレだが人物描写が極めて雑。主人公ベン・リチャーズは「怒りまくりの貧乏親父」で、内面的な深みや成長がほとんどない。脇役もステレオタイプの悪役や味方ばかりで、社会批判の怒りが前面に出すぎて深みが薄い。ラストは絶望的な自爆でシステムに一矢報いるものの、救いのない虚無感が強い。
映画版はそんな原作の「浅さ」を意図的に引き継いでいる。ライト監督はこれまでの持ち味——『ショーン・オブ・ザ・デッド』や『スコット・ピルグリム』で見せたキャラのクセや関係性の丁寧な掘り下げ、ウィットに富んだユーモア——をかなり抑えめにしている。ベン・リチャーズ(パウエル)はいつも機嫌悪く苛立つだけで、脇役もゲームショー内のステレオタイプを反映した平板な扱い。ゲームショーの演出(ディープフェイク、過剰なプロダクトプレイスメント、ハンターの武器名が「FATE」や「JUSTICE」と画面表示されるチープさ)は、メディアの浅薄さをメタ的に風刺するための「わざと雑」なものだ。シュワ版のキャンプで下品なノリを現代的にアップデートしようとした結果、人物像が雑に見えるのは監督の意図的な選択と言える。
この「愛すべきB級」の再現は部分的に成功している。ゲームショー内の過剰でチープな演出、80年代B級アクションへのオマージュ(ド派手なハンター、司会者のイヤミさ)は、確かにシュワ版の馬鹿馬鹿しさを彷彿とさせる。アクションシーンもライトらしい高速編集とスタイリッシュな疾走感があり、グレン・パウエルの等身大の奮闘は好感が持てる。特に橋からのダイブなど、トム・クルーズばりのスタントを自らこなす姿は頼もしい。
しかし、全体として「もう一捻り」が欲しかった。ライトの持ち味である遊び心やキレのあるコメディが抑えられ、シリアスな怒りとB級ノリの間でトーンが不安定。原作忠実を優先したのは評価できるが、もっと盛って全力でB級馬鹿馬鹿しさに振り切るか、逆に監督色を爆発させてスタイリッシュに昇華させるか、どちらかに寄せた方がインパクトがあったはず。高予算大作の制約で「安全牌」に寄ってしまった感は否めない。批評家からも「トーンが一貫しない」「ライトのフルドーズが足りない」「弱い最終幕」といった声が多く、興行的にも苦戦したようだ。
ラストについては、原作の虚無的な自爆エンドを避け、希望の余地を残した形に変えている。ベンが生き残り、家族との再会や革命の象徴として描かれる部分は、ハリウッドらしいカタルシスを与えてくれる。原作の暗さを残しつつ、現代の観客に救いの糸口を残す選択は、ライトの優しさを感じさせる。ただ、シュワ版のようなストレートな「勝っちゃう」爽快感とは少し異なり、どこかぼんやりとした余韻を残す終わり方だ。観終わったあと、明快な勝利感より「これからどうなるんだろう」という曖昧な希望が胸に残る。
結論として、この『ランニング・マン』は「高予算でB級を再現しようとした結果、中途半端にB級っぽさが残った」好例。嫌いな映画ではない。原作の怒りをちゃんと拾いつつ、ラストに明るい余地を残した点は好印象だ。ただ、エドガー・ライトならもっとひねれたはず。シュワ版の脳死で楽しい馬鹿馬鹿しさが恋しくなるのも事実。B級愛好家には刺さるが、ライトファンとしては「次はもっと監督色出して!」という渇望が残る一本だった。

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