歴の上では秋ではあるが、まだまだ厳しい暑さが続いている。暑さをしのぐにはやはり納涼。そして納涼と言えば怪奇幻想である。というわけで「怪奇幻想小説祭り」の第3弾をここに賑々しく(?)開催させていただきたい。
ロアルド・ダールの幽霊物語 / ロアルド・ダール(編集),乾 信一郎 (翻訳)
幽霊物語の目的はぞっとさせることにある。読者をぞくぞくさせ、不安な気持にさせなければならない―あるTVシリーズの企画のため、原作となる幽霊物語を選定することになったロアルド・ダールは、まずこのような基準を設けた。そして、この基準を厳格に守りながら、古今の作品を読みついでいった。諸々の事情で企画そのものは中止となったが、ダールの手もとには、14篇の宝石が残った。有名無名を問わず、本物の幽霊物語だけが放つ妖しい光。闇の向こうの恐怖が、あなたの安眠をさまたげずにはおかない。
ロアルド・ダールといえば泣く子も黙る短篇小説の帝王であり、児童文学でもその名を馳せる才人である。さてこの『ロアルド・ダールの幽霊物語』だが、実は「ロアルド・ダールが書いた幽霊物語」ではなく、「ロアルド・ダールが選りすぐった幽霊物語アンソロジー」である部分にご注意されたい。
このアンソロジーの来歴を紹介しよう。幽霊をテーマにしたTVシリーズ企画に参加したロアルド・ダールはなんと749篇もの幽霊物語を読み、その中から24篇を選んでTV化しようとしたが頓挫、その中からさらに14篇を選りすぐって編集されたのが本書なのだ。短篇小説の世界的名手が選りに選った14篇、いったいどんなものか気にならないわけがないだろう。
気に入った作品を幾つか紹介しよう。「街角の店(シンシア・アスキス)」はディケンズ『クリスマス・キャロル』を思わせる哀切に満ちた贖罪の物語で、心温まる幽霊譚といえるだろう。「クリスマスの出会い(ローズマリー・ティンパリー)」 は時代を超えた出会いがしっとりとした感動を呼ぶファンタジー。「エリアスとドラウグ(ヨナス・リー)」は海の怪を描く神話的な幻想譚で、実に格調高かった。「遊び相手(A・M・バレイジ)」はイマジナリー・フレンド系の幽霊譚だが、どっしりとした語り口調が素晴らしかった。 「落ち葉を掃く人(Ex-プライベート・X) 」は気丈な女主人公と老婦人の隠された過去を描く筆致が巧い。
そしてアンソロジーの中でも白眉だったのが「鳴りひびく鐘の町(ロバート・エイクマン)」。ある新婚夫婦がひなびた港町に旅行に出かけたが、その町では途切れることなく延々と鐘が鳴らされていた、という不吉な導入部から既にぞくぞくさせられるが、その夫婦が町で出会ったものというのが……。今回のアンソロジーはどちらかというと19~20世紀初頭の古い時代が舞台となった作品が多かったが、この「鳴りひびく鐘の町」は設定から構成までまぎれもなくモダンホラーのもので、その恐怖も暴力的なまでに迫ってくるものだ。実は今回のアンソロジーを読んだのは、以前から気になっていたロバート・エイクマンのこの作品を読みたかったからだが、期待は裏切られなかった。
幻想と怪奇① / ハイスミス他 (著), 仁賀克雄 (編集)
編者仁賀克雄氏はこう述べる。「第一のポイントは、1950年代を中心として、既訳の作品のなかから、これはと思われる[幻想味]や[怪奇色]のあるものを選んだ。もう一つのポイントは、読者にとって面白い作品を提供しようと努めたことである。本書はマニアを対象としたものではない。私が考える面白さというのは、昔の見世物にあった「お化け屋敷」の面白さである」本巻①にはハイスミスの「すっぽん」ほか5編を収めた。
本書『幻想と怪奇①』とそれに続く『②』は、かつて早川書房より刊行された仁賀克雄編の3巻からなるアンソロジー『幻想と怪奇』を底本とし、翻訳者の許諾を得られられたもののみをまとめて2巻として編集されたアンソロジーである。1950年代の作品を中心としていることから若干古典的な作品が並ぶが、オーガスト・ダーレス、ロバート・ブロック、パトリシア・ハイスミス、リチャード・マシスン、レイ・ブラッドベリといった有名作家が顔をそろえており、読みごたえは十分だろう。特にロバート・ブロックの「ポオ蒐集家」が白眉だ。「アッシャー家の崩壊」のプロットを踏襲したパロディ作品なのだが、馬鹿馬鹿しいほどにおぞましいゴシックホラーとして完成しており、ド派手過ぎてなんだか笑ってしまった。妻に違和感を感じ始めた男を描くリチャード・マシスンの「二年目の蜜月」もいい。オーガスト・ダーレス「淋しい場所」は子供の恐怖心を巧みに描いていた。パトリシア・ハイスミス「すっぽん」は異常心理を描く。レイ・ブラッドベリ「トランク詰めの女」はホラー風味のミステリー作。
幻想と怪奇② / ブラッドベリ他 (著), 仁賀克雄 (編集)
『幻想と怪奇』第2巻。本巻にはブラッドベリの「死人使い」ほか7編を収めた。
『幻想と怪奇』の第2巻。ロバート・シェクリイの描く「夢売ります」はSFチックな寓話で、どこか藤子不二雄のダークな短篇SFコミックを彷彿させる。ロバート・ブロック 「ルーシーがいるから」は叙述ホラーだが途中でオチが分かっちゃうかな。 一方、同じロバート・ブロックによる「こころ変り」は幻想的な怪奇ロマンスを描いていてこちらはGOOD。ジョン・コリアの「特別配達」はマネキンに恋した男の破滅を描く。ジャック・ヨネ「牝猫ミナ」は貧困と暴力が暗い幻想へと昇華する。 一番楽しめたのはレイ・ラッセルによるハチャメチャSFホラー「宇宙怪獣現わる」。なんと身長155センチの毛むくじゃらのワセリンの塊が次々と美女を襲う!?という実にしょーもない内容で、あまりの馬鹿馬鹿しさに逆に感心してしまった。葬儀屋の密かな愉しみを描くレイ・ブラッドベリの「死人使い」も黒い笑いに満ちていて良作。


