盗んだ金の隠し場所を忘れちゃった!?〜映画『Ghanchakkar』【ヴィディヤー・バーラン特集】

■Ghanchakkar (監督:ラージクマール・グプター 2013年インド映画)


事故で記憶喪失になったばかりに、銀行強盗で奪った金の隠し場所を忘れちゃった!?という泥棒たちのドタバタを描くダークコメディ『Ghanchakkar』であります。この設定だけで既に面白いんですが、さらに「誰かが嘘を言っている!」という物語展開から非常に秀逸なスリラーともなっているんですね。主演は傑作『The Dirty Picture』でも共演したイムラーン・ハシミとヴィディヤー・バーラン、監督を『No One Killed Jessica』のラージクマール・グプターがやっております。

《物語》金庫破りのプロ、サンジュー(イムラーン・ハーシュミー)は妻のニートゥー(ヴィディヤー・バーラン)と悠々自適の生活を送っており、泥棒稼業も引退状態だったが、ギャング連中から新たな銀行強盗に誘われ、不承不承仕事をこなし大金を奪う。そして一緒に強盗をしたパンディトとイドリースは、その金をほとぼりが冷めるまでサンジューに預けることにした。3ヶ月後、サンジューに「そろそろ金を山分けしようぜ」と電話を掛けたパンディトとイドリースだったが、サンジューは「お前らの事も金の事も知らない!」と冷たくあしらう。実はサンジューは事故で記憶喪失になっていたのだ!納得できないパンディトとイドリースはサンジューの家に押しかけ、金の在り処を思い出すまでここで寝泊まりすると言い出した。

この物語、盗んだ金がどこにいってしまったか分からない!ということから始まる大騒動を描いたコメディなんですが、それと同時に「誰かが金を独り占めして黙っている」という疑惑も存在しているんですね。そういった部分で、なかなかのミステリー作品ともなっているんですよ。とりあえずパンディトとイドリースのチンピラ二人は除外するとしても、金を横取りしたのは最近羽振りのいい友人じゃないか?いや、それとも大金をへそくりしていた妻なんじゃないのか?と主人公は疑心暗鬼に駆られます。記憶喪失中に何があったのかなんて分からないですからね。しかしそれと同時に観ている側としては、この主人公自体が記憶喪失だっていう嘘をついているんじゃないのか?という疑惑を持ちながら観てしまうんですよ。

ミステリーの用語に「信頼できない語り手」という言葉があるんですが、本来主人公は客観的に正しい視点で物語を語っている、というお約束を逆手に取り、読者にミスリードをうながしてしまう、という手法なんですね。この物語の主人公は、泥棒仲間に脅されて必死に金の在り処を探すんですが、実はそれは全て演技なんじゃないか?金の在り処は本当は知っていて、記憶喪失と偽ることで金を独り占めしようとしているんじゃないのか?という疑惑が観ている者に生まれてくるんですね。でもしかし、本当に彼は記憶喪失だということも、やはりあり得るわけなんですよ。そういった部分で、コメディの体裁をとりながらも最後まで目の離せない秀逸なミステリーとしても観ることのできる作品なんですよ。

そんなお話なんですが、物語自体はなんだか緩く進んでゆくのがまた可笑しい作品なんです。なにしろパンディトとイドリースという二人のチンピラがどうにも間抜けな凸凹コンビで、発端である銀行強盗シーンから既にして緊張感が薄い。その後も主人公夫婦を脅している割にはまるで凄みが無い。あまつさえそのうちの一人はピンク電話にうつつを抜かしブリーフ一枚で鼻の下を伸ばしているシーンが描かれたりするもんですから始末に負えません。そして主人公の妻ニートゥーが頭がパッパラパーだという設定もなんだか可笑しい。なぜだかいつも変な服ばかり着ていて、おまけにメジマズ嫁なんですが、これが物語に何の関わりもない、といった部分も訳が分からなくて楽しかったでした。こんな役をなんなくこなすヴィディヤー・バーランは流石でした。

とはいえ、クライマックスでは一気に急展開を迎え、緊張感が高まるところなどもメリハリが効いて見応えがありました。この辺タランティーノぽかったよなあ。実際の所興行的にはあまり振るわず、評価もあまり高くない結果となった作品らしいのですが、それを知って「え?なんで?」と思えたほど優れた作品でしたね。テーマ的には違いますが『女神は二度微笑む』に似たきちんとしたミステリー構成を成した作品だといえるのではないでしょうか。

http://www.youtube.com/watch?v=ClncY3AQxeg:movie:W620