『IFFJキネカ大森』でインド映画4本観た

《目次》

『IFFJマサラスペシャル・イン・キネカ大森2017』

去年の暮、キネカ大森で開催されていた『IFFJマサラスペシャル・イン・キネカ大森2017』でインド映画4本を観てきました。

 8作品公開のうち、今回オレが観たのは4作品、どれも南インドの作品です。実はこれらは去年のGW、【南インド映画祭 SIFFJ2017】で公開されていた作品の一部なんですね。【SIFF2017】は忙しくて全く観に行っていなかったので今回の企画はラッキーでした。

南 インド映画祭[日本のボリウッド映画]SIFFJ

それらの作品をちょっと紹介してみましょう。

帝王カバーリ[原題:Kabali] (監督:パ・ランジット 2016年インド映画※タミル語)

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マラッカ監獄から25年の服役を終えた60歳のカバーリが出所する。マレーシア・タミル人三世のこの男、ギャングながら人々からの信望が厚い。しかし出所と同時に彼の命を付け狙う勢力も始動する。(SIFFJ HPより)

出演:ラジニカーント、ラーディカー・アプテー、ウィンストン・チャオ

2016年に公開されたスーパースター・ラジニカーントの最新作『帝王カバーリ』です。前情報なしで「いつもの楽しいラジニ映画」を想像して観に行ったらこれがビックリ、なんと熾烈なマフィア抗争を題材としたガチなノワール作品だったんですね。とはいえラジニの役どころは"非合法活動をしているが民衆の味方"であって決して悪漢という事ではありません。物語はマフィア映画らしく抗争や裏切りが描かれ、この辺は銃撃戦やらなんやらで定番通りなんですが、ここに「25年の服役の間に失われた妻と娘」という家族テーマが加味されることで独自のドラマとなっています。マフィア映画でよく描かれる"ファミリー"と、インド映画でよく描かれる”家族愛”がマッチングしているんですね。タミル語映画なんですが綺麗に整頓されたシリアスな演出はボリウッド映画的で、ラジニカーントの渋く抑えた演技はボリウッド映画の帝王アミターブ・バッチャンをついつい連想してしまいました。このラジニ映画らしからぬシリアスさが新鮮に感じましたが、逆に賑やかなラジニ映画を想像して観ようとすると肩透かしを食うかもしれません。オレ的には「これはこれでいんじゃない?」と思いましたけどね。それとマレーシア移民のテルグ人による苦闘の歴史の一端が垣間見える部分が興味深かったですね。 

レモ[原題:Remo] (監督:バーギヤラージ・カンナン 2016年インド映画※タミル語)

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俳優志望のSKは、オーディションで女装して看護婦として演技することを求められる。同時に彼は、一目ぼれした相手が医師として勤める病院に、看護婦として潜り込むことに成功する。(SIFFJ HPより)

出演:シヴァカールティケーヤン、キールティ・スレーシュ

インドの最強(?)女装コメディ『レモ』であります。一目惚れした彼女のハートを射止める為に女装ナース姿で近付く主人公、というビジュアル&設定だけでも相当強烈なんですが、いざ暴漢の襲来ともなればその女装ナース姿で華麗に相手をぶちのめす!なーんてシーンがもう最高なんです。実の所ナース姿は俳優オーディションの為だったんですが、その格好のまま彼女の勤める病院に採用されちゃうんですよ!?「いやいやアナタ看護婦の資格ないでしょ!?」と普通は思いますが、「こまけー所はいいんだよッ!」とばかりに強引に突っ走っちゃう部分が逆に清々しい。で、そのナース姿で女医である彼女に近付き、「いい男知ってるのよ」と本来の姿の自分を売りこんじゃったりしてるんですよ。まあよく考えると相当ヒドイ話なんですが、この無理過ぎる嘘にさらに嘘を重ね、仕舞いにのっぴきならない事態を呼び込んじゃう、この「のっぴきならない事態」のあれこれがひたすら可笑しいコメディとして完成しているんですね。こんな主人公を演じるシヴァカールティケーヤンの女装姿はある意味ヒロインよりも美しいかもしれない……と一瞬思ってしまい慌てたオレでありました。 

ウソは結婚のはじまり?![原題:Eedo Rakam Aado Rakam] (監督:G・ナーゲーシュワラ・レッディ 2016年インド映画※テルグ語)

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 求職中のアルジュンは、一目惚れした相手の同情を誘うために、自分を孤児と偽って、スピード結婚に成功する。しかし妻が見つけてきた間借り先は、厳格な父を筆頭にした家族が住む自分の家だった。(SIFFJ HPより)

出演:ヴィシュヌ・マンチュ、ソーナーリカ・バードリア、ラージ・タルン

惚れた娘を振り向かせる為についた嘘がさらに嘘を呼び込み、雪だるま式に膨れ上がってにっちもさっちもいかないことに!?という典型的なインドコメディです。ヒロイン・ニーラヴェニは家族のごたごたが嫌いなばかりに「結婚相手は孤児がいい」という女性なんですが、それを知った主人公アルジュンは「俺って孤児でーっす」と言って近付き、まんまと彼女の家族である兄貴に紹介されます。しかしその兄貴というのがバリバリのヤクザで、「ウチの妹と付き合うとるんやな?じゃあ結婚せぇや!?結婚するんやろな!?」と脅され無理矢理結婚という流れがあまりにもあまりで可笑しくてしょうがない!その後ニーラヴェニは新居を見つけますが、なんとそこは入居者募集中の主人公の家族の住む家!「いや俺、孤児ってことになってるし!?」ここからの涙ぐましくもまた馬鹿馬鹿しいドタバタがひたすら笑いを生んでゆくんですね。インド・コメディのスゴイ所は、縺れまくったややこしい事情がメインであるばかりに到底一言で粗筋を紹介できない所で、そしてそんなにややこしいにもかかわらず実際観てみると分かり易くしかも楽しくてしかたないって部分で、これ相当インテリジェントだよなあ。主人公二人のドタバタもよかったけど、一番光ってたのは主人公のお父さんの、あまりに切れ味の良すぎるボケっぷりだったなあとオレは思ったよ! 

ルシア[原題:Lucia] (監督:パワン・クマール 2013年インド映画※カンナダ語)

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バンガロールの下町の映画館で働くニキルは不眠に悩んでいる。あるとき、眠れないまま夜の街路に出た彼は、怪しげな売人から「ルシア」という睡眠薬を買う。それは単に睡眠に導入するだけでなく、極上の夢を見せ、その夢を次の晩に引き続き楽ませるというものだった。(SIFFJ HPより)

出演:サティーシュ、シュルティ・ハリハラン

貧乏でモテない映画館雑用人ニキルが、「ルシア」という睡眠薬の作用により「イケてる自分の登場する夢」を見始めるが……というミステリアスなドラマです。その夢に登場するのはビッグな映画スターの自分と超美人な新人女優のシュウェータ。しかしそのヒロインとそっくりな女性シュウェータを現実世界で見かけたばかりにニキルの人生は錯綜してゆくのです。つまり夢が現実を予言するのですが、しかし現実は夢のようには上手く運びません。とはいえ苦労に苦労を重ねシュウェータと交際することに成功したニキルだったのですが、今度は夢の中のニキルがシュウェータと破局を迎える。こうしてドラッグが誘う明晰夢に沈溺するダメ男を主人公としながら、いつしかそれが代償行為の夢であることから乖離して、一つのモチーフから枝分かれした二つの物語へと発展してゆくのがとてもユニークなドラマなんですね。構造的に「夢なのか現実なのか?」というドラマではありますが、むしろ、「何が現実なのか?」がこの物語の根幹となるテーマなのではないのでしょうか。それは「現実を選ぶという事はどういうことなのか?」ということでもあります。そしてこの作品は同時に、とてもコミカルでなおかつ眩しいロマンスを瑞々しく描いた作品でもあるのです。