巨悪vs.スラム街のヒーロー/スーパースター・ラジニカーント主演映画『Kaala(カーラー)』

■Kaala(カーラー)(監督 : パ・ランジット 2018年インド(タミル)映画)

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スーパースター、ラジニカーントの新作映画!と聞いたらこりゃあ観に行かない訳にはいきません。タイトルは『Kaala(カーラー)』、これは主人公の名前であると同時にインドの死の神ヤマのことも指しています。監督はパ・ランジット、彼はラジニの前作『帝王カバーリ』(2016)の監督を務めた人でもあるんですね。

物語の舞台となるのはムンバイにあるスラム街ダラヴィ。ある日ここに都市開発の波が押し寄せ住人の強制退去が勧告されます。裏で手を引くのは元ギャングのハリ・ダッタ連合大臣(往年のインド映画名バイプレーヤー、ナーナー・パーテカルが演じます!)、開発の巨大な利権を我がものとし、甘い汁を吸うとしていたのです。しかーし!ダラヴィのリーダーであり住民たちのカリスマでもある男カーリー(ラジニカーント)が立ち上がり、ハリ・ダッタの陰謀を叩き潰そうと戦うのです!

舞台となる街ダラヴィはインドに実在する人口30万人とも言われる世界最大のスラム街で、映画『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)の舞台ともなりました。1920年代には大量のタミル人移住者が流入し、映画ではこのタミル人居留区が中心となって描かれます。ムンバイが舞台なのにタミル映画なのはそんな理由からです。ダラヴィの実情はWikipedia(英語版)で読むことができますが、ガイド付きツアーが行われており、↓のリンクでは日本人ブロガー氏による貴重な体験記事を読むこともできます。

映画ではこのスラムで暮らす人々の貧しいながらも気の置けない家族や仲間たちとの毎日が時にコミカルに、そして情感豊かに描かれてゆきます。しかしそんな彼らの生活は都市開発の名のもとに暴力的に粉砕されようとしています。窮状の中にある彼らが助けを求めたのはスラム街のリーダーであり精神的支柱である男・カーラーだったのです。カーラーは強烈な意志と鷹揚とした物腰を持つカリスマ的な男です。そしてひとたび乱闘ともなると恐るべき身のこなしで相手をやり込め、快刀乱麻に事を収めるのです。

そんなカリスマ・ヒーローをインド映画のカリスマ・スーパースター、ラジニカーントが演じます。インドの死の神の意味もある名前カーラーだけに、映画においてラジニは死の神の如く常に黒い衣装をまとっています。これがまたいぶし銀の光をまとっているかのようにカッコいいんですね。今作におけるラジニの役どころは困窮した住民たちを救済するヒーローですが、そもそもラジニ映画の多くは巨悪の成す暴力により打ちひしがれた貧しい人々を救う、というテーマによって製作されているのではないかと思います。

スラム街撤去にまつわる住民対政府組織の対立という構図からは、マニ・ラトラム監督による「インド版ゴッドファーザー」とも呼ばれるテルグ語作品『Nayakan』(1987)を思い出しました。あの作品もムンバイにある南インド人スラム街において横暴を極める警官たちを成敗するため住民たちの顔役とも言えるカリスマ的主人公が立ち上がるのです。また、腐敗した政治家と身を挺して戦う正義のヒーローという構図においては、『ロボット』(2010)でも有名なシャンカール監督の『Nayak: The Real Hero』(2001)を思い出した作品でした。

「巨悪と戦うカリスマ・ヒーロー」というラジカーント十八番の物語展開であるゆえに、逆に物語それ自体には新鮮味はありません。また、主人公が無敵のカリスマ過ぎて物語に緊張感をもたらしにくいという難があります。カーラーが敵の姦計により過酷な状況に追い込まれるのは後半からで、ここでようやく物語にドライブが掛かってきますが、これなどももう少し早い段階に演出があってもよかったかなと思えます。しかし、ラジニ作品によく見られるド派手な演出や巨大セット、見栄えのいいCG映像などを一切排し、そういった演出に頼らない等身大のヒーロー像を描こうとした部分にこの作品の特色があるかもしれません。

また、ムンバイにおける「南インド人による南インド人の平和」を描こうとした今作は、ラジニ&パ・ランジット監督による前作『帝王カバーリ』の、マレーシア移民テルグ人の「南インド人による南インド人の平和」を描こうとした物語と重なります。これらは南インド人たちの苦闘の歴史を掘り起こし、それを記憶に留め、さらに救済をもたらそうという一貫したテーマを感じさせ、さらに我々日本人には馴染の薄いインドの歴史の一端を垣間見せるという点で非常に興味を覚えさせてくれました。

とはいえラジ二もいい歳なんであんまり体が動かず(現在67歳なのだそうな)、踊りのシーンでは手足を軽くパタパタさせているだけなのをダンサー全員がシンクロさせることでなんとか見栄えよく見せられていた位だし、アクションシーンなんかはラジ二がやっぱり手足パタパタ振り回してたら敵が勝手に血反吐吐いて「ひでぶ!」とか「あべし!」とか言いながら宙をクルクル舞っている、という往時のジャイアント馬場さん状態なのはご愛嬌です!ま、無理なさらないでこれからも民衆のヒーロー、スーパースターとして銀幕で輝いていてもらいたいですな。


Kaala (Tamil) - Official Teaser | Rajinikanth | Pa Ranjith | Dhanush | Santhosh Narayanan