最近読んだ本あれこれ・橋本治と椎名誠

■たとえ世界が終わっても ──その先の日本を生きる君たちへ/橋本治

 “イギリスのEU離脱決定”と“ドナルド・トランプアメリカ大統領選当選”を見て、成長と拡大を求め続ける資本主義経済の終焉を確信したという橋本治。資本主義の終わりとは何か?その後を我々はどう生きるべきなのか?「昭和の終わりと同時に日本経済は飽和した」「貿易なんて西洋人の陰謀に過ぎない」「国民はクビにできないので、企業経営感覚の政治家は容易に差別主義者になる」など、政治や経済といった枠を超えて次世代に語りかけるメッセージ。

オレにとって90年代は、ひたすら橋本治の著作を読んでいた時期でもあった。『親子の世紀末人生相談』のあまりに透徹した視点に度肝を抜かれたオレは、その後に読んだ青年論「貧乏は正しい!」シリーズの切れ味の鋭い様々な言論とそれを生み出す強烈な思考力にすっかり魅せられていた。ダメ極まる日々を送る青年だったオレは、橋本の著作に勇気付けられていたのだ。

『江戸にフランス革命を!』『89』『二十世紀』の従来的な視点を全く廃した歴史観の在り方と分析力にもひたすら舌を巻いた。オレの歴史観の在り方は実は若干橋本の影響があるのだ。00年代からの「ああでもなくこうでもなく」シリーズも読み耽った。橋本治の考え方、言葉の発し方はメインストリームにあるそれらの背骨をバリバリと外し、橋本ならではの道を新たに舗装するかのような胸のすく革新性があった。

そんな橋本の本を読まなくなったのは、このままだと信者になっちゃうな、と思ったからである。橋本の言説には天網恢恢疎にして漏らさぬ簡明直截な正しさがあった。ただその正しさは橋本の思考力があればこそひとつの筋道を持って成り立つのであって、オレごときが言説の結論だけ真似っこしてもイビツな付け焼刃にしかならない。ただそれでも、橋本の著作に勇気付けられた心根を持ってこれから生きられればいいと思ったのだ。

あれから10数年、橋本はいまどんな本を書いているのだろうか、とふと思ったのだ。調べると橋本ももう70過ぎ、結構イイ年だ。そんなことを思いながら橋本の近作であるこの『たとえ世界が終わっても』を手に取った。驚いたのは橋本がもう「書く」こと自体がしんどくて、この著作自体は「語り下ろし本」になっていることだ。

しかしかつて読んだ"橋本節"には全く衰えが無い。「イギリスのEU離脱決定とドナルド・トランプアメリカ大統領選当選」を端緒としながら、話題はいきなり紀元前アレキサンダー大王の征服へヨーロッパにおける帝国主義の歴史へと話は飛び、それは日本の80年代バブルの話題に受け継がれ、その中から拡大主義と飽和化した経済の行方を考察するのである。だが橋本は決して世界経済の未来を占おうというのではなく、そこから個人の心の論理について言及してゆく。

この辺の結論は「ああでもなくこうでもなく」シリーズを読んだときの既視感があって、良くも悪くもあの頃の「正しい」橋本からまるで変わっていないなあ、と思えた。しかし、橋本は彼の言う「心ある論理」が一朝一夕に社会に適応されるわけがないこともきちんと知っていて、でもなおかつ、「心ある論理」を心の内に持ち考え続ける事なのだよ、と締めくくるのだ。

個人的には、世界は、その従来性にある限り、どんどんずるずるとダメになってゆくだけなのだろうと思っている。そして世界というのは、その従来性を決して手放さないものであろうとも思っている。どれだけシステムアップデートしても基本の論理機関は変わらないからだ。『君主論』でマキャベリの言う如く、為政者だけ変え続けても実は悪くなり続ける事だけは変わらないのだ。世界を変えるのは、変わる事ではない。そして変わるのは、変えるのは、その世界を観る自らの論理の在り方だけである。橋本が言おうとしているのは、そんなことなのかもしれない。

■ひとりガサゴソ飲む夜は……/椎名誠 
 ■ナマコのからえばり/椎名誠
ナマコのからえばり (集英社文庫)

ナマコのからえばり (集英社文庫)

 
■本日7時居酒屋集合! ナマコのからえばり/椎名誠 

Kindleは持ってるのだが、やはり読書となると紙の本を買ってしまう。だがKindleは暗い所でも片手でも読めるので、特に車中にいる時はKindleを利用することにしている。で、Kindleのほうはなるべく軽めで疲れない本にしようということで、昔好きだったが最近は読んでいない椎名誠の本を何冊か入れてみた。いやあ10代の頃はホントに椎名誠が好きで(流行ってたというのもあったが)相当読んでいた。オレは日本の文筆家で尊敬しているのは、橋本治とこの椎名誠ぐらいなんだ。椎名さんはおもいっきりズボラな所と妙に繊細な部分があってオレ好きなんだよなあ。で、久しぶりに読んでみると案の定流石に軽い。軽いんだが椎名さんの膨大な旅の記憶から呼び戻される膨大な情報量にはクダを巻く。じゃなかった舌を巻く。殆どは酒と食い物の話だけどね!でも一人の呑兵衛であり大食漢であるオレとしてはそこがいいんだよ!この、膨大な情報量をさらっと気楽に、さらに面白おかしく読ませる話法というか文章法がやっぱり、零細ブロガーとしてグダグダした文章しか書けない一般ピーポーのオレなんかが読むともう太刀打ちできないぐらい凄いという事を改めて気付かされるんだよ。「おいこらやめろやめろやめろ」という文章なんて最高に好きだなあ。