アンソニー・ホロヴィッツの『その裁きは死』を読んだ

その裁きは死 / アンソニー・ホロヴィッツ (著), 山田 蘭 (翻訳)

その裁きは死 ホーソーン&ホロヴィッツ・シリーズ (創元推理文庫)

実直さが評判の離婚専門の弁護士が殺害された。裁判の相手方だった人気作家が口走った脅しに似た方法で。現場の壁にはペンキで乱暴に描かれた数字“182”。被害者が殺される直前に残した謎の言葉。脚本を手がけた『刑事フォイル』の撮影に立ち会っていたわたし、アンソニー・ホロヴィッツは、元刑事の探偵ホーソーンによって、奇妙な事件の捜査にふたたび引きずりこまれて──。

アンソニー・ホロヴィッツのミステリをいろいろ読んできたけど、今回は〈名探偵ホーソーン〉シリーズ第2弾『その裁きは死』を紹介する。前作『メインテーマは殺人』に続くこのシリーズの最大の特徴は、作者アンソニー・ホロヴィッツ本人が小説の中に登場して、元刑事の凄腕探偵ダニエル・ホーソーンと一緒に事件を追う、というメタフィクション構造だ。まさに「作者がワトソン役をやってる」本格ミステリの新境地。

物語は離婚専門の優秀な弁護士が自宅で高価なワインのボトルで殴り殺されるところから始まる。現場の壁には謎の数字「182」が殴り書きされ、被害者が最後に残した不気味な言葉も謎を深める。ホロヴィッツはまたしてもホーソーンに強引に巻き込まれて捜査に同行する羽目になる。そこに新たな死が絡み、事件はどんどん複雑に……。

第1作が「ホーソーン&ホロヴィッツ」のキャラ紹介に重点を置いていたのに対し、本作では二人の関係性がかなり深く掘り下げられる。ただ、ホーソーンは相変わらず背景が謎だらけ。ぶっきらぼうで傲慢、自己中心的、無神経……正直「こいつ嫌い!」と思う読者が少なくないはずだ。作者が意図的に「推理は神がかり的だけど人間的には欠陥だらけ」の探偵を描いたのは明らか。でもその性格が作品の楽しさをかなり削いでしまっていると感じる。

一方、語り手の「小説内ホロヴィッツ」はこんなホーソーンに振り回されっぱなし。愚痴をこぼし、警察に脅され、命の危機にさらされ、推理を試みても毎回的外れ……。情けなさが極まっているけど、これこそ作者本人が自分をパロディ化した自虐芸だとわかると、むしろ微笑ましい。ホロヴィッツのこれまでの傑作を考えれば「こんなに間抜けなわけがない」と気づかされる仕掛けが秀逸だ。

そんな構造が徐々に腑に落ちてくる第2作。伏線回収の見事さとホーソーンの推理の切れ味は前作を上回る鋭さで、後半のどんでん返しは圧巻。シリーズは全10作予定で、ホーソーンの過去が少しずつ明かされていくらしい。ただ、正直に言うと……まだまだ謎の多い主人公に「次も絶対読みたい!」というほどの魅力が伝わってこないのが本音だ。ミステリとしての完成度は高いだけに、ホーソーンの「人間味」がもう少し見えたらもっとハマっていたかもしれない。というわけでシリーズを読むのは今作で打ち止めにする。