最近、というかここ半年ぐらいの間に読んだ本の覚え書き。
■リアリティのダンス / アレハンドロ・ホドロフスキー
『エル・トポ』をはじめとする数々のカルト映画を生みだし、今もなお精力的に新作を撮り続ける鬼才アレハンドロ・ホドロフスキーの自伝。映画化もされた『リアリティのダンス』『エンドレス・ポエトリー』の原作でもある。とはいえこの自伝では映画との関わりはほぼ数行しか書かれておらず(多分別の著作に詳しいのだろう)、映画で描かれた青年期以降では、彼のオカルト的精神修行、さらにサイコテラピストとしての道が書き記されることになる。これを読みながら感じたのは、オレはホドロフスキーはオカルティストであり神秘主義者だと思っていたのだが、それは間違いはないとしてもむしろそれらを論理的に看過しこの世界の理の埒外に在るものを貧欲に探求しながらそれらが何故こうであるのかを追及し続けた男であるのだなあということだった。そこにあるのは生半可なスピリチャリズムではなく、彼自身の透徹した洞察力と知性と感受性が、これらの世界を垣間見せることをようやく許しているという事なのだろうと思う。
■無限の書 / G・ウィロー・ウィルソン
イスラム世界を舞台としたサイバーパンク・ファンタジー、世界幻想文学大賞受賞作。めくるめく電脳世界と同時に精霊の跋扈する異世界をも描くことになるのだが、その辺が水と油というか、わかったような分からないような世界というか、 始終腑に落ちない気持ちで最後まで読むことになってしまった。
■タマスターラー / タニス・リー
ファンタジイ界の巨匠タニス・リーによるSFファンタジー集。《インド幻想夜話》と日本副題が付けられているように、物語群の舞台となるのは過去現在未来の時を旅しながら描かれる幻想のインド。ファンタジイには暗いオレだがインドが舞台という事で読んでみることにした。ここに現れるインドは決して現実のインドとは違うのだけれども、例えばアンリ・ルソーが描く数々の熱帯幻想絵画のように、芳醇な想像力を駆使した「もうひとつのインド」を垣間見せているという部分で面白い。過去世を舞台にした中盤までのファンタジイ作品は出色だが、SF色の強くなる後半は若干陳腐になってしまうのが惜しい。
■ジョイランド / スティーヴン・キング
S・キングが『ミスター・メルセデス』以前に書いていたミステリー作品、例によってちょっぴりホラー風味。寂びれた遊園地を舞台にした甘くほろ苦い青春ストーリーがなかなかによく、ミステリーとしては『ミスター・メルセデス』やその続編よりもオレは好きだったな。青春モノを書かせるとこの人はやっぱり上手い。
■ワニの町へ来たスパイ / ジャナ・デリオン
寒い国から……ではなくルイジアナの田舎町というワニの国へ来てしまった敏腕女性スパイのユーモア・ミステリ。己の身分を隠して必死に一般人の振りをしつつも時折そのスキルが顔を覗かせてしまう部分に可笑しさを醸し出そうとしているが、主人公があまりに状況に振り回され過ぎて敏腕スパイにあまり思えない、というかスパイの必然性をあまり感じなかったのが難だが、軽く読み進める事が出来る作品としてはこんなものか。
■夜の夢見の川(12の奇妙な物語) / シオドア・スタージョン、G・K・チェスタトン他
オレは《奇妙な味》の作品集というのがとても好きで、時折思い出した頃に購入してぽつぽつ読んでいるのだが、これもそんな一冊。こういったアンソロジーはなにしろ編者の選択眼が問われるが、今作の編者である中村融氏はその腕をいかんなく発揮しており、これまで読んだことある《奇妙な味》アンソロジーの中でも群を抜いて素晴らしかった。読んでいて心をざわめかさせる不安な作品が目白押し。
■街角の書店(18の奇妙な物語) / フレドリック・ブラウン、シャーリイ・ジャクスン他
こちらも中村融氏による《奇妙な味》 アンソロジーだが、『夜の夢見の川(12の奇妙な物語)』と同様どれも非常に完成度の高い「どことなく嫌な話」が並ぶ。特に文豪で知られるジョン・スタインベックの短編が選出されているところなど流石。これも『夜の夢見の川』と一緒に読みたい一冊。
■書楼弔堂 炎昼 / 京極 夏彦
明治時代を舞台に様々な時の偉人と1冊の本を巡る奇妙な古書店の物語、続編。今作では語り部を女性にすることで明治時代当時の代わりゆく女性の在り方も露わにすることになる。物語の仕組みは前作と一緒であるが、このシリーズはなにしろ文章が素晴らしい。そして明治という時代を振り返りながら、実は現代に存在する問題にも言及しているのだと思う。