今年面白かったバンドデシネとアメコミあれこれ

■バウンサー / アレハンドロ・ホドロフスキー、フランソワ・ブック

バウンサー

バウンサー

ホドロフスキーの描く西部劇!ともなるとどうしても『エル・トポ』を思い出さずにはいられませんよね。

無法のならず者たちが跋扈する西部の大地を舞台に、血塗られた出生の秘密、呪いに満ちた財宝、血縁同士の怨念、虚無と哄笑に塗れた死が次々と描かれ、その無情の中で復讐だけがただ一つの理由となった生が鬼火のごとく赤々と燃え上がる。アレハンドロ・ホドロフスキーの『バウンサー』はホドロフスキーがこれまで描いてきたおぞましい運命のただ中にある激烈なる情念をここで再び展開しながら、その地獄巡りの如き運命の道程はこれまで語られたホドロフスキーのどのような物語よりも鮮烈な暴虐に溢れ返っている。ここには烙印の如き原罪と逃れられぬ悲劇が存在し、物語に登場する誰もが血と屍の海に飲み込まれ、狂気を宿した目をしばたたかせながら悶えあがきまわるのだ。
バンドデシネ2作読んだ / 『バウンサー』『ウィカ―オベロンの怒り』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

ミラン・K ティーンエイジャー編 / サム・ティメル(作)、コランタン(画)

ミラン・K

ミラン・K

少年が主人公ながら国際金融界のダークサイドを上手にテーマに盛り込んだ佳作でした。

少年はまず軍資金として亡き父が残した莫大な隠し財産を追ってゆく、というのが物語の大まかな流れになるが、ここでもともと映像ジャーナリストであった作者の国際経済・金融業界に対する知識が生かされることにより、単なる陰謀活劇にとどまらず、国際金融のダークサイドと奇妙なからくりをも描いた大変ユニークな作品として仕上がっているのだ。主人公を追撃するロシア政府が次々に築いてゆく死体の山と爆破された瓦礫の数も大盤振る舞いであり、アクション・コミックとしても破格のものがある。その中で主人公は体力だけではなく高い教育に裏打ちされた知識でもって様々な危機を乗り越えてゆくのだ。これまでもその潜在的なポテンシャルの高さを知らしめてきたバンドデシネではあるが、このような作品まで飛び出してくるとはさすがに唸らされるものがある。アクション映画、スパイ・冒険小説の好きな方に是非お勧めしたい。
国際的な陰謀に巻き込まれた少年の決死の逃避行を描く傑作コミック『ミラン・K』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

■MISS / フィリップ・ティロー(作) マルク・リウー&マーク・ヴィグルー(画)

MISS

MISS

  • 作者: フィリップ・ティロー,マルク・リウー&マーク・ヴィグルー
  • 出版社/メーカー: パイインターナショナル
  • 発売日: 2015/08/13
  • メディア: 単行本
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大恐慌下のアメリカを舞台に、白人女性と黒人女性がペアになった殺し屋を描くハードボイルド・ストーリー。クール&タフな物語にしびれました。

4つの物語にはそれぞれ明確な起承転結があるわけではない。むしろ、とりとめなく行われる二人の殺しの狭間から、彼らの生きる非情な世界と、ノラとスリムのキャラクターとその生き方が、じわりじわりと滲み出してくる仕組みになっているのだ。そして読めば読むほどに、彼ら二人に魅了され、愛しきってしまう自分に気付くはずだ。(中略)こうして、どん底に生まれた二つの魂が、信頼という最高の武器を手に、人種も性別も超え、魑魅魍魎のはびこる世界を、クール&タフに生きてゆく。これがこの作品の最高の魅力なのだ。会話はブラックなウィットに溢れ、読んでいて忍び笑いを何度も洩らしてしまう。
禁酒法時代のマンハッタンを駆け抜ける白人女と黒人男の殺し屋コンビ!〜『MISS』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

ヘルボーイ:捻じくれた男 / マイク・ミニョーラリチャード・コーベン

ヘルボーイ:捻じくれた男

ヘルボーイ:捻じくれた男

オカルト・アクション、ヘルボーイの中短編集。不気味で妖しいシナリオに堪能させられました。

ヘルボーイの物語の多くはグラフィックとしての情報量の多さ(緻密な描き込みというのではなくて、その世界を一目瞭然に描き切る説得力)と物語それ自体の情報量の密度が相乗効果を生む稀有なグラフィック・ノベルとして楽しむことができる。グラフィックだけとか物語だけとかが突出していないのだ。ヘルボーイの物語はオカルティズムを基盤とした怪奇譚であり、テラーと呼ぶべきものではない。ヘルボーイ物語はマイク・ミニョーラの博覧強記ともいえるオカルト知識が撚り合わされ、鬱蒼たる世界を構築されているが、それをヘルボーイが腕力ひとつでぶち壊してしまう。ヘルボーイはアクションもいける物語なのだ。このインテリジェンスとフィジカルの拮抗するバランスがヘルボーイ物語の醍醐味と言えるのだろう。
鬱蒼たるアメリカの森林地帯でヘルボーイが出遭った邪悪の存在〜『ヘルボーイ:捻じくれた男』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

■続リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン / アラン・ムーア (著)、ケビン・オニール(画)

ビクトリア朝時代を舞台に、アラン・クォーターメン、ネモ船長、ジキル博士とハイド氏、透明人間、さらに吸血鬼ドラキュラのヒロインが主人公となったスチームパンク作品の続編は大波乱でした。

毎回古きイギリスを彷彿させるSF・推理・怪奇小説の小ネタがとどまるところを知らぬ量で散りばめられるこの作品だが、さらに今作では「火星しばり」ということで、火星を舞台にしたプロローグで物語られるのはE.R.バローズの「火星シリーズ」の様々な登場人物と小ネタではないか!このプロローグで描かれる幻想の火星が実に楽しい。そして舞台を地球に移し、小説『宇宙戦争』そのままに殺戮と破壊にさらされるイギリスを死守せんと活躍するLoEGの面々だが、ここで切り札としてもう一つのウェルズ小説の登場人物が担ぎ出される。(中略)今作のもう一つの主眼となるのはLoEGの面々の人間関係だろう。前作では癖のある者同士困難に向かって協力し合っていたのだが、やはり他人と協力なんかできない面々ばかりのせいか、今作では各々のスタンドプレイが遂にその同盟の瓦解にまで発展してゆくのだ。それがどんな形で終極を迎えるのかが今作の見所となっている。
最近読んだBDやらアメコミやら〜『続リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』『プロレス狂想曲』『ベルベット』 - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ