透徹した描写力で描かれた驚くべきファンタジー世界〜『ガラスの剣』

■ガラスの剣 / シルヴィアーヌ・コルジア、ラウラ・ズッケリ

カ?ラスの剣

緑溢れる牧歌的な世界と不思議な生物相。 少女と老剣士は、死へと向かうこの美しい世界を救うことができるのか?
少女ヤマが暮らす村に、ある日、一振りの剣が舞い降り、聖なる岩に突き刺さる。それは触れる者をみなガラスに変えてしまう神秘の剣だった。残忍な傭兵オルランドのせいで、両親を失ったヤマは、いつかガラスの剣を抜き、彼に復讐することを誓う。やがて彼女は、かつて将軍にまで登りつめた老剣士ミクロスと出会う。ヤマが語る空から落ちてきた剣の話は、ミクロスにある予言を思い出させる。いずれ太陽の光が弱まり、世界は死へと向かう。その時、4本の剣が空から舞い降りる。それらが1つの場所に集まった時、別世界への扉が開き、人々は救われる――。はたしてヤマは復讐を遂げ、ミクロスとともに4本の剣を集めることができるのか? 2人の冒険の旅が始まる!

物語の舞台となるのはファンタジー的な異世界だ。ある日太陽から4つの剣が放たれ、その一つがある村の"聖なる石"に突き刺さる。それは触れるものをガラスの彫像へと変える神秘の剣だった。騒ぎの中現れた帝国軍傭兵によって主人公少女マヤは両親を失い、森へと逃げ込む。マヤは森の中で隠者として暮らす老剣士ミクロスと出会い、いつの日か神秘の剣を手に入れ復讐することを誓って修行の日々を送る。一方剣士ミクロスは、その剣がこの世界を救うを4つの伝説の剣の一つであることを知っていた。こうして4つの剣を探す二人の旅が始まる。
こうした粗筋からはエクスカリバー伝説を基にした少女の復讐と成長の物語だということは容易に想像できる。また、旅の途中で出会い仲間となる様々な人々、さらに他の3つの剣を持つ者の探索、そして同じく剣を我が物にせんとする凶悪な帝国軍との戦い、といった物語の流れは王道的なファンタジーのプロットでもあるだろう。しかしこの『ガラスの剣』はただそれだけのありふれたファンタジー・ストーリーでは決してないのだ。
この作品の大きな魅力の一つはそのグラフィックの細微に渡るディテールの在り方だ。特にコスチュームや装飾品の意匠は古代や中世の様々な民族のものをより合わせ、それを独自のデザインのもとに統一した非常にオリジナリティを感じさせるものだ。
もう一つは作品の中で描き分けられた様々な土地と、そこで刻々と移り変わる時間や気候を巧みに表現するその力量だ。緑豊かな平原、鬱蒼とした森林、荒涼とした荒地、どんよりとした沼地、寒々とした雪山、猥雑なスラム、壮麗たる帝国、これらを美しく説得力あるグラフィックで描き分けているだけではなく、そこには朝があり昼があり夜があり、焼き付ける太陽がありしとど降る雨がある。それはひとつの世界であれば当たり前のことなのだが、これを表情豊かに描き切ったことにより、あたかも実際にこの世界が存在しているような錯覚さえ覚えさせられるのだ。
さらにそこで生きる人々は誰もが情感に溢れ、複雑な過去とその結果としてある現在に生き、成就せねばならない未来を持っている。どのキャラクターも生き生きとした魅力を持っているのだ。こうした徹底した描写力がひとつに合わさることにより、この『ガラスの剣』はありふれたファンタジー・ストーリーであることを回避した、実に物語性豊かでエキサイティングな作品として結実している。しかもファンタジー・ストーリーと思わされていたこの物語はクライマックスで一転するのだ。
こういった部分で、グラフィック・ノベル『ガラスの剣』は、凡百のファンタジー作品を遥かに凌駕した豊潤な物語として読む者を楽しませるだろう。タイトルや表紙だけからは容易に想像できないその素晴らしい作品世界を是非堪能してもらいたい。

カ?ラスの剣

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