暗い現実世界と熾烈な幻想世界を交互に行き来するダークファンタジー映画『ゴッドスレイヤー 神殺しの剣』

ゴッドスレイヤー 神殺しの剣 (監督:ルー・ヤン 2021年中国映画)

誘拐された幼い娘を何年も探し続けている男がいた。彼の名はグアン・ニン。そんな彼にある巨大企業CEOが近付き、娘を見つける代わりにある男を殺してくれと依頼する。標的となるのは無名のWeb小説家コンウェン。彼の書く異世界物語が、巨大企業CEOを死に追いやろうとしているというのだ。しかもその物語は、グアン・ニンの夢に度々現れる奇妙な世界でもあった。そしてその世界とは、どこのいつの時代とも知れぬ、氏族同士が殺し合いを繰り広げる幻想世界だった。

中国で2021年に公開され、168億円ものメガヒットとなったというファンタジーアクション『ゴッドスレイヤー 神殺しの剣』です。日本では今年1月に公開されたようなんですが、全くノーチェックで存在すら知りませんでした。ところが最近レンタルで出回ったのを何の気なしに観た所、これが結構いい出来でびっくりしてしまったんですね。出演は『修羅 黒衣の刺客』のレイ・ジャーイン、『波や雑貨店の軌跡 再生』のドン・ズ―ジェン。監督を『ブレイド・マスター』『修羅 黒衣の反逆』などの武侠アクションを得意とするルー・ヤンが勤めます。

物語は現実世界、幻想世界の二つが交互に描かれます。現実世界では殺し屋となった男グアン・ニン(レイ・ジャーイン)と、彼の標的の売れないWeb小説家ルー・コンウェン(ドン・ズ―ジェン)との奇妙な交流が描かれてゆきます。この現実世界編では韓国映画のようなダークで血腥い展開を見せますが、同時にルーの描く異世界小説が実は現実世界に影響を与えるものであることが次第に明らかになってゆくんです。

一方幻想世界編では、殺戮の吹き荒れる世界が描かれます。この世界は古代中国を思わせますが、かと言って現実のいつの時代にも存在したはずのない架空のものです。姉を殺され復讐を誓う男がこの世界での主人公となりますが、それは現実世界のルーであり、同時にこの世界全体がルーの描く異世界小説『神殺し(ゴッドスレイヤー)』そのものだったのです。この幻想世界が現実世界とどういう関わりを持つものなのか、物語の最初では全く説明されず、中盤まで終始謎めいた展開が進みます。

とはいえ、この幻想世界の描写が、なにしろ凄いんです。悪夢のような街並み、奇怪な部族衣装、命を持つ鎧、悪魔の如き深紅の殺戮者、そして繰り広げられる熾烈な攻城戦、魔術的な人外の戦い。これらが優れたCGIにより画面いっぱいに描かれ、どこまでも鬱蒼としたダークファンタジー世界を表出させているんです。それはあたかも『バーフバリ』シリーズと『マッドマックス 怒りのデスロード』が古代中国で悪魔合体したかのような世界なんです(ちょっと褒め過ぎ?)。この幻想世界編の想像力溢れるイメージを堪能するだけでもこの作品を観る価値があると言っても過言ではありません。

特に後半でのボスキャラ戦は、PS5の4KUHDゲームを大画面でプレイしているかのような気さえしてきます。最高に優れたゲームをプレイしてるような、美しい画像に酔い痴れ、とことんエキサイトなアクションを堪能しているような気にさせるんです。「ゲームを思わせる映像」と書くと白けてしまう方もいるかと思いますが、この世界があくまでWeb小説で書かれた架空のものであることの非現実性が、こういった映像表現の在り方に繋がっているとも言えます。

もう一つ、幻想世界の物語だけで完結していてもいいような構成を持ちながら、なぜ現実世界が持ち出されるのか、という事です。それは想像する力こそが現実を変え得るものだという事なのだと思います。想像力によって自らを救うこと、それはある種の願いでもあるということです。娘を誘拐され絶望の淵に立つグアン・ニンは異世界で展開する物語で救いを得ます。売れないWeb作家コンウェンは暗い異世界に希望を持ち込もうとすることで自らを救います。タイトルにある「神殺し」とは何か。それは、おのれの運命を乗り越えるという事だったんです。