プシュパ 君臨 (監督:スクマール 2024年インド映画)

『プシュパ 覚醒』の続編『プシュパ 君臨』
インド映画『プシュパ 君臨』は、密輸稼業で成り上がった男の強烈な生き様を描いた物語だ。2021年に公開された『プシュパ 覚醒』の続編として製作され、本国インドでは『RRR』を超える大ヒットを記録したという。主演は前作に続き、テルグ映画界の大スター、アッル・アルジュン。監督は『ランガスタラム』のスクマールがメガホンを取っている。
ここでまず、1作目『プシュパ 覚醒』の物語を振り返っておこう。主人公のプシュパは、南インドの貧しい家庭に生まれ、非嫡出子(妾の子)として虐げられて育った男だ。どん底からの成り上がりを誓った彼は、幻の高級木材「紅木(こうき)」の密輸に手を染め、その度胸と狡猾さで瞬く間に組織の頂点へと上り詰める。だが、そんな彼を逮捕せんと、蛇のごとく執念深く冷酷な警視シェーカーワトが立ちはだかる。
『プシュパ 覚醒』はいわゆるピカレスクロマンだが、従来のインド映画やテルグ語映画とは一味も二味も違う手触りを持っており、鑑賞時にはその非凡さに唸らされた。その魅力をいくつか挙げてみたい。
映画『プシュパ』シリーズの特異な面白さ
まず、密輸の“シノギ”となる「紅木」という題材が秀逸だ。紅木はインド・スリランカ原産の極めて質の高い木材だが、乱獲により絶滅危惧種となり、現在はワシントン条約で取引が厳しく規制されている。この紅木を物語の核に据えた視点がいい。麻薬や銃器と異なり、モノ自体が直接的に人を傷つけるわけではないからだ。もちろん種の保存を軽んじる点でプシュパは「悪」なのだが、麻薬商人らに比べるとどこか奇妙なクリーンさが漂うのである。
次に、プシュパの成り上がりが単なる暴力によるものだけではない点だ。危機に瀕した際の判断力や度胸に加え、狡猾な知略を駆使する「戦略家」としての側面が強調されている。これが、本作を単なるマフィアのバイオレンス映画と一線を画させている。敵勢力や警察を相手に、プシュパが計略を尽くして打破していく様は実に小気味いい。
そして何より、プシュパ自身のキャラクターの異様さだ。ボサボサの髪にどんよりとした目つき。常に口に何かを含んでいるような喋り方に、左肩が上がった歪な歩き方。一見すると胡乱(うろん)極まりない「異形」の風貌だが、いざ抗争となれば抜群の行動力で敵を圧倒する。このギャップが凄まじい。この男を演じるアッル・アルジュンは、素顔は非の打ちどころがない色男なのだから、俳優という職業の恐ろしさを痛感させられる。
続編『プシュパ 君臨』が到達した極致
最新作『プシュパ 君臨』も、その面白さをきっちりと踏襲している。冒頭、密輸先である横浜港で大暴れするプシュパの姿で、観客の心は既に鷲掴みだ。そして今作で描かれるのは、かつて叩き潰したはずの敵勢力の再起、そして復讐に燃える警視シェーカーワトとの再対決だ。それらに加え、妻とのコミカルなやり取りや、被差別階層として虐げられた過去をいかに克服するかといったドラマが重層的に展開していく。
上映時間はなんと222分、4時間近い長尺だ。しかしその中で、プシュパの波乱に満ちた運命が、インド映画お馴染みの超時空爆裂アクションと極彩色のダンスシーンを交え、これでもかと言わんばかりの熱量で描かれる。スケールは前作を遥かに凌駕し、バイオレンスはより過激に、プシュパの情念はマグマのごとく噴出し続ける。複数のサイドストーリーが絡み合う構成は、全8話ほどの連続ドラマをさらにゴージャスにして一気見させられているかのような、極限の満足感(あるいは満腹感)をもたらす。
そこに見出すのは、悪のカリスマとしてのプシュパの魅力であり、交響曲のように奏でられる怒濤の人生賛歌だ。暴力と祝祭が交互に訪れる構成はまさにインド映画版『ゴッドファーザー』。しかも同作と同様に第3部の製作も予定されているらしく、プシュパ帝国の存亡をかけた物語はまだ続くようだ。
もっとも、次も4時間近い上映時間となれば、劇場へ足を運ぶのは少し躊躇してしまうかもしれない。いや、間違いなく面白いのだが……いかんせん、こちらは老齢ゆえ体力が保つかどうかが問題なのである。
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