デーヴァラ (監督:コラターラ・シバ 2024年インド映画)
貧しさから密輸に手を染めた海辺の村で巻き起こる熾烈な抗争。『RRR』のNTR.Jrが主演する『デーヴァラ』はインド映画ならではの濃いい人間描写とぶったまげ異次元アクションが飛び交う海洋バイオレンス映画である。ちなみに原題が『Devara Part.1』となっているように、映画はラストで「次回に続く!」で終わってしまうのでこれからご鑑賞される方はお気を付けを。オレは知らなかったんでラストでびっくりしてしまった。次作となる『Devara Part.2』は2026年撮影開始予定とのこと。
主人公デーヴァラに『RRR』のNTR.Jr。『ヤマドンガ』や『バードシャー テルグの皇帝』といった日本公開作もあるので是非ご覧になるといい。ヒロイン・タンガにジャンーヴィー・カプール。この方実は『マダム・イン・ニューヨーク』のシュリデヴィの娘さんなのだとか。敵役バイラにヒンディー映画界の二枚目スター、サイーフ・アリー・カーン。他にもプラカシュ・ラージやムラリ・シャルマといったインド映画の名バイプレーヤーが出演していて、元インド映画ファンのオレとしては嬉しいところ。
【STORY】1996年、 クリケットのワールドカップを控えたインドに衝撃が走る。 巨大犯罪組織による破壊工作の情報を得た警察本部は、 それを阻止すべく作戦を開始。 犯罪組織のリーダーを追って、 特別捜査班が凶悪な密輸団の巣窟として恐れられていた “赤海”と呼ばれる村へと向かった。 困難を極めた捜索の末、 捜査班は十数年にわたって凄惨な抗争が続くその土地で、 愛と正義を貫いた デーヴァラという英雄と その息子の血塗られた伝説を知ることになる…。
舞台となる村は太古の昔、急峻な山と荒海に挟まれた小国で、ここに攻め入る敵を撃破するための強靭な海洋戦闘集団が存在していた。だがインド独立とともに彼らは職務を失い、それによる貧困から密輸に手を染めだしたのだ。つまり根っからのならず者集団ではなく、已むに已まれぬ犯罪行為だったのだ。しかしこの密輸団を率いる男デーヴァラがある事件をきっかけに善意に目覚め密輸を止めると宣言し、まだまだ密輸を続けたい勢力と暴力的な対立が巻き起こってしまう、というのがこの物語となる。
物語は現代と近過去を描くものなのにもかかわらず、舞台となる村は何百年も前から何も変わっていないかのような、とても古ぼけた家並みがあり、自然を相手にした素朴な生活を営む人々がいて、いつの時代から続いているのか定かではない習俗に慣れ親しんでいる。村の権勢を喫する祭り”武器祭礼"では男同士の肉弾戦が行われてこれが映画のハイライトになるが、こんな具合に太古の状態のまま連綿と続く現代、というのがこの物語の鍵なのだ。これは太古の神話が未だ生き続ける世界のお話であり、つまりはデーヴァラという男の存在とその生きざまそれ自体を神話の如く描いたのがこの映画なのだ。
これは南インド映画、この作品だとテルグ語映画になるのだが、特にアクション作品だと顕著に見られる要素のように思う(沢山観ているわけではないので断言しない)。主人公が織りなす神の如き権勢、その神性を待望する人々、そして神話の如き物語構成、これは芳醇たる歴史と大いなる神話を持つインドならではのものなのだろう。もちろんヨーロッパにおいても数々の神話や宗教的逸話が存在し、それが現代でも物語の中に混入することはあるにせよ、古代と現代が共存する社会であるインドはそのアレゴリーがより強烈であり確固なものとなるのだ。
映画作品として観るなら、南インド映画がどれもそうであるように、主人公は強烈なキャラクターを有し、アクションは破天荒極まりなく、暗く強力な暴力が炸裂したかと思えば百花繚乱な歌と踊りが目を楽しませ、これでもかと濃厚な物語を展開した作品となっている。インド映画の常套だが映画の前半後半でテンポを変え、この作品においては時代を飛び越え急展開を持ち込む部分は驚きに満ちていた。しかし思いっきり矮小化するならこれは小さな村の中における小競り合いの物語でしかなく、世界の広がりを感じさせない部分が難かもしれない。これに関しては『Part.2』において現代へと世界を繋げ拡張してゆくという予定なのだろうが、それにしてもこういった2部構成は冗長に感じさせることは否めず、欲を言うならこの1作で話をまとめてほしかったところであった。