『F1®/エフワン』『こいつで、今夜もイート・イット アル・ヤンコビック物語』など最近配信で観た映画

『F1®/エフワン』

F1®/エフワン (監督:ジョセフ・コシンスキー 2025年アメリカ映画)

私は車に興味がない。ましてやF1ともなれば「ファンクションキーのことですよね、わかります」と答えてしまうレベルの門外漢だ。本作が世間で高く評価されていることは知っていたが、劇場へ足を運ぶまでには至らず、配信開始を待っての鑑賞となった。しかし、いざ観始めてみれば、それは噂に違わぬ傑作であり、己の不明を恥じるほど圧倒された。

まず特筆すべきは、主演のブラッド・ピットが見せる、凄まじいまでの「枯れた色気」だ。 彼が演じるのは、第一線を退いた「くたびれた中年」である。だが、その背負った哀愁や疲弊した佇まいが、同じ男の目から見ても胸がときめくほどに格好いい。もともと好感を持っていた俳優ではあるが、「これほどまでに格好良かったか」と改めて驚嘆させられた。

物語の引力も凄まじい。単なるスピードの狂宴を描くのではなく、一見華やかな国際自動車レース界の裏側に渦巻く泥臭さや、勝利をもぎ取るための「汚い手」を容赦なく描き出していく。 何より痛快なのは、その「汚い手」を厭わないのが、我らが主人公自身であるという点だ。彼は清廉潔白な正義の味方などではない。ある種のダーティーヒーローであり、体制に馴染めぬ「はぐれ者」であり、孤高の一匹狼なのだ。その振る舞いに、思わずニヤリとさせられる。

緻密に構成された脚本、血の通った人間臭い登場人物たち、そして息を呑むほど白熱するレースシーン。155分という上映時間に、当初は腰が引けていたのも事実だが、蓋を開けてみれば終わるまでが瞬く間だった。 2025年のベスト映画として本作を挙げる人々が、なぜこれほどの熱狂を以て語るのか。その理由を、身をもって理解させられた一作だ。


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こいつで、今夜もイート・イット アル・ヤンコビック物語 (監督:エリック・アペル 2022年アメリカ映画)

大ヒット曲「今夜もイート・イット」を生み出したアル・ヤンコビックの自伝映画!? と聞いた瞬間、「これは観るしかない!」……とは全く思わなかった。 でも、ダニエル・ラドクリフヤンコビック役で主演!? と知ったら、「ラドクリフ、相変わらず訳の分からない役ばっかり選ぶなあ」と思って、観ることにした。

物語は冒頭から、引っ込み思案な少年アルと「替え歌」との出会い、工場労働者の厳格な父との確執、父の手を逃れて気の置けない友人たちと才能を開花させるエピソードなど、「自伝映画あるある」すぎる描写が続く。

「まあ、こんなもんか」と納得しかけたところで、アルが「もう替え歌はうんざりだ! これからはオリジナル曲で勝負する!」とばかりに生み出した曲『今夜もイート・イット』が大ヒット。なんと、あのマイケル・ジャクソンが逆にパロディ曲『今夜はビート・イット』を作り、さらにアルの曲に心酔したマドンナとアルが結ばれてしまう、という超展開が待っている。

「何じゃこりゃ?」と思うけど、そもそもコメディアンであるアルの自伝映画をまともに撮っても面白みに欠けるのは明らか。だからこそ、こういうぶっ飛んだ冗談展開が逆に最高に楽しめた。あと、今をときめく怪優デヴィッド・ダストマルチャンがクイーンのベーシスト、ジョン・ディーコン役で数秒だけ出演しているんだけど、似せようとする努力がまるで見られない(というか完全に放棄してる)ところが、最高の見どころだった。全体に漂う80年代カルチャーのダサ懐かしさが楽しい作品だった。


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