『蒲公英(ダンデライオン)王朝記 巻ノ二: 囚われの王狼』を読んだ

■蒲公英(ダンデライオン)王朝記 巻ノ二: 囚われの王狼 / ケン・リュウ

蒲公英(ダンデライオン)王朝記 巻ノ二: 囚われの王狼 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

人を惹きつけてやまない天性の魅力をもったクニ・ガルと、皆殺しにされた一族の復讐を胸に生きる男マタ・ジンドゥ。ザナ帝国打倒の旗印のもと、ふたりは永遠の友情を誓ったはずだった―。帝国との戦いが激しさを増すなか、マタは鬼神のごとき活躍で都市を制圧していく。いっぽうクニは驚きの奇策を講じ、帝国の首都パンでついに皇帝を捕らえる。だが、ある行き違いから自身が裏切られたと思い込んだマタは、クニと袂を分かち、覇王として即位することを宣言する。運命に選ばれたふたりの男を中心に、戦いのなかで煌めく人の願いと祈りを描き出した幻想武侠小説、第二巻・第一部完結篇。

傑作短編集『紙の動物園』のケン・リュウによる初長編『蒲公英(ダンデライオン)王朝記』、『巻ノ一: 諸王の誉れ』に続きこの『巻ノ二: 囚われの王狼』で堂々完結です。この『蒲公英(ダンデライオン)王朝記 』、もともと本国では1冊で刊行されていましたが、あんまり長いので日本では2分冊で発売されていたんですね。ちなみに『巻ノ一』の感想はこちら(↓)で。

『紙の動物園』ケン・リュウによるシルクパンク・エピック・ファンタジイ巨編『蒲公英(ダンデライオン)王朝記』開幕開幕〜! - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

『蒲公英(ダンデライオン)王朝記』は『項羽と劉邦』で知られる紀元前3世紀の中国で起こった楚漢戦争を題材に、架空の世界を舞台とした"シルクパンク・エピック・ファンタジィ"として書かれたものです。『巻ノ一』では物語の舞台である多島海世界ダラ諸島を統べる帝国に叛乱の狼煙を上げた二人の主人公の、武術と戦術に裏打ちされた戦いの様子が描かれてゆきますが、この『巻ノ二』ではダラ諸島を制圧した彼らが思わぬすれ違いで対立することになってしまいます。なにしろ『項羽と劉邦』ですからねーとか言いつつ『項羽と劉邦』読んでませんが。
とはいえ、『巻ノ一』は大変楽しみながら読んだのにこの『巻ノ二』はなんだかイマイチだったんだよなあ。これ、後半からパワー落ちたということではなく、1巻目と2巻目の発売に間が空いていたもんですから、2巻目を読み始める時に状況やら人間関係やらを思い出しながら読むのがしんどかった、というのがあるんですよね。読む方の側のオレの勢いが殺がれてたんですよ。まあ若い方ならそんなことはないと思うんですが、なに分年寄りなのですぐ忘れちゃうんですよ。それと、当然ですが1冊目と同じ世界観なのでそれを改めて読まされるのに新鮮さを感じなかったというのがありますね。要するに一気に読めなかったのが難だったんですよ。ええはい全部オレが悪いんです……。
もうひとつ詰まらなかった理由は、奇妙に"政治的に正しく"描かれている部分が垣間見られてて、そこがなんだか乗れねえなあ、物足りないなあ、と思った部分だったな。もとが武侠小説なんですから、もっと血腥く残虐で、狂ってて理不尽で、現代のモラルなんて通用しない世界を描いて欲しかった、というのがあるんですよ。でもこの『蒲公英王朝記』はなんだか現代的でクリーンで賢い匂いがするんですよ。数十万と言う大量虐殺を描いていても狂った感じがしないんですよ。この辺、作者ケン・リュウのあまりの知性と理性の高さが邪魔したような気がするなあ。まだ続編が書かれるようですが、続きは読まなくてもいいかなあ。

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)