蛮族!蛮人!バンバラバンバンバン!/映画『ノースマン 導かれし復讐者』

ノースマン 導かれし復讐者 (監督:ロバート・エガース 2022年アメリカ映画)

蛮人さんが行く!

血!殺戮!破壊!蛮族の蛮人が蛮行をはたらく!映画『ノースマン 導かれし復讐者』は9世紀の北欧地方を舞台に、父である王を殺された男が復讐を誓い、バイキングとなって宿敵を討ちに行く!という物語です。主演・製作をアレクサンダー・スカルスガルド、共演としてアニヤ・テイラー=ジョイ、ニコール・キッドマンウィレム・デフォーイーサン・ホークビョークという豪華キャストが脇を固めます。監督は『ウィッチ』『ライトハウス』の鬼才ロバート・エガース。

9世紀、スカンジナビア地域のとある島国。10歳のアムレートは父オーヴァンディル王を叔父フィヨルニルに殺され、母グートルン王妃も連れ去られてしまう。たった1人で祖国を脱出したアムレートは、父の復讐と母の救出を心に誓う。数年後、アムレートは東ヨーロッパ各地で略奪を繰り返すバイキングの一員となっていた。預言者との出会いによって己の使命を思い出した彼は、宿敵フィヨルニルがアイスランドで農場を営んでいることを知り、奴隷に変装してアイスランドへ向かう。ノースマン 導かれし復讐者 : 作品情報 - 映画.com

復讐を誓い血塗られた道を歩む主人公!

映画は冒頭から血生臭さ炸裂です。父王の暗殺から始まる物語は生き延びた息子がバイキングとなり村々を略奪してゆく描写へと受け継がれてゆきます。成長した主人公アムレートはプロレスラーの肉体とヘヴィメタルな相貌を兼ね備えた凶悪な狂戦士として育ち、その情け容赦ない殺戮描写はあたかも古代にタイムスリップしたマッドマックス世界の如き無情の世界を眼前に表出させます。泥濘と曇天に覆われた陰鬱な荒野といった北欧地方のロケーションが物語の殺伐さをいやがうえにも高めてゆくんですね。

そして古代北欧といえば北欧神話。オーディーンやヴァルキリー、ヴァルハラなんていう北欧神話の固有名詞が飛び交い、呪術的な儀式が描かれ、預言と神託が語られ、戦士の亡霊が剣を振り、イグドラシルを思わせる血の家系図が幻想シーンに登場します。これら現世と常世が混然一体となり、人間界と神域が地続きになった神話的な世界観がこの作品のもう一つの見所です。主人公アムレートは預言に導かれ父の仇の元へと辿り着き、大鴉の助けを借りて危機を乗り越えるんです。

そして神話の世界へ

こういった神話的世界観は去年観た『グリーン・ナイト』に通じるものを感じましたが、『グリーン・ナイト』のアーサー王伝説にしろこの『ノースマン 導かれし復讐者』の北欧神話にしろ「なぜ今神話なんだろう?」という気がちょっとします(まあたまたま重なっただけだとは思いますが)。現代において社会や世界が複雑化し、人々の生活や思考も多様化してゆく中で、それを描く物語もまた複雑化し多様化しています。しかしそれ自体は現代という時代を映す鏡ではあっても、どこか歯に物が挟まったような、「物語」としてなにかすっきりしないものを覚えるんですよ。そこでもう一度「物語」の原初に立ち返ろうとする態度、それが『グリーン・ナイト』やこの『ノースマン 導かれし復讐者』が作られた背景にあるんじゃないでしょうか。

映画としてはまず配役の誰もが素晴らしくて非常に魅せられました。特にアニヤ・テイラー=ジョイはアニヤ・テイラー=ジョイ史上最高のアニヤ・テイラー=ジョイだったんじゃないでしょうか。物語的には中盤から停滞を見せ錯綜し始めるのですが、この辺りはロバート・エガース監督の前作『ライトハウス』に見られた出口のない暗黒展開と似た閉塞感を感じさせました。その閉塞を(キリスト教ではない)異教の信仰が突き破っていくのは、これはエガース監督の第1作『ウイッチ』に通じていたのではないでしょうか。

あれこれ

……とまあ以上はいつものインチキ臭い映画感想文ですが、パンフレットを読んだら非常に沢山の示唆に富んだ事例が書かれていて目から鱗でした。本作は綿密な時代考証に基づいたバイキングの姿を描いている事。物語はシェイクスピア悲劇『ハムレット』を下敷きにしていますが、そもそも主人公アムレートはデンマークの伝説上の人物であり、それ自体が実は『ハムレット』の着想の元であった事。北欧神話を基にしたR・E・ハワードによるヒロイック・ファンタジー小説『英雄コナン』シリーズとの共通点がある事。ビョークってどこに出てたの?と思ったら貝殻で目隠しした妖しい預言者役だった事などなど。以上、これから鑑賞される方はご参考にされてください。

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