スリラー映画『ザ・メニュー』は決して宮沢賢治の『注文の多い料理店』ではなかったッ!?

ザ・メニュー (監督:マーク・マイロッド 2022年アメリカ映画)

その料理店に来た客は……髪をとかし履き物の泥を落とされ、金属製のものを全て外され、顔と手足にクリームと酢の匂いのする香水を塗らされ、そして最後に体中に塩を擦り込むように要求された……いったい客たちの身に何が待っているのか!?レイフ・ファインズ、アニヤ・テイラー=ジョイ主演のスリラー映画『ザ・メニュー』の始まり始まり!……ってそれは宮沢賢治の『注文の多い料理店』やないかいッ!?

えー、とてもつまらない冗談で失礼しました。というわけでレイフ・ファインズ、アニヤ・テイラー=ジョイ主演のスリラー映画『ザ・メニュー』です。孤島のレストランにやってきた客たちがとっても怖い目に遭っちゃう!?というスリラー、というかこれもうホラー映画ってことでいいんじゃないですかね。なるべくネタバレ無しで書いていこうかと思います。

【物語】有名シェフのジュリアン・スローヴィクが極上の料理をふるまい、なかなか予約が取れないことで知られる孤島のレストランにやってきたカップルのマーゴとタイラー。目にも舌にも麗しい料理の数々にタイラーは感動しきりだったが、マーゴはふとしたことから違和感を覚え、それをきっかけに次第にレストランは不穏な空気に包まれていく。レストランのメニューのひとつひとつには想定外のサプライズが添えられていたが、その裏に隠された秘密や、ミステリアスなスローヴィクの正体が徐々に明らかになっていく。

ザ・メニュー : 作品情報 - 映画.com

陸地から遠く離れた孤島に建つ超高級レストラン「ホーソン」。天才シェフ・スローヴィクが仕切るこの店では今日も究極にして至高のフルコースメニューが供されます。予約すらまともに取れないこんなレストランにやってくるのはセレブたちばかり。で、スローヴィクは料理を1品出すごとに「これは大自然のアレのコレをソレしたものなのです!」とかなんとか能書きを垂れるんですね。「地球がッ!生命がッ!エコがッ!サステナブルがッ!」とかなんとかもっともらしくてなんだか意識高そうでとりあえず言っておけば時流に乗ってるぜオレカッコいいぜ的な文言も付けくわえたりしてね(あ、サステナブルは多分言ってないな!)。

そして客たちも「おお!これはアレのソレ!しかし隠し味はコレ!私たちは《い・の・ち》を食べている!」とかなんとか分かったような分かんないようなとりあえず分かったふりしとけば頭よさげに見えるしオレカッコいいぜ的な文言をほざきながら有難がって半ベソかきつつ料理を食ってるわけなんですよ。

で、実際出てくる料理はですね、いわゆる「分子ガストロノミー」みたいなものなんですが、もっと言うならば料理というよりも料理という概念、コンセプトとしての料理、料理の名を借りたシェフの精神の高次な表現なんですね。概念を食っても腹は膨れないと思うんですが、セレブの皆さんは別にお腹が減ってこのレストランに来ているわけではなくて、「セレブしか入ることの出来ない超高級レストランの究極にして至高のフルコースメニュー」というステータスを食いに来ているともいえるわけです。

ウザイ強調表現を乱舞させながら何を言いたいのかというと、この映画『ザ・メニュー』は、これら全部を虚仮にし笑いものにし、血と死と殺戮と炎の中に放り込んでしまえ!ということを目的とした映画なんですよ。要するに全部皮肉なんですよ。まあ結構怖いシーンも沢山あるんですが、ホントはこの映画、コメディ映画なんじゃないですかね?

まあ実のところ物語には狂人とバカしか出てこない上に、途中でネタ切れ起こして同じ事の繰り返しになりウンザリさせられました。狂人とバカって物事ををご破算にするしか能がないんで、この組み合わせで物語作ったって面白くなるわけがないんですよ。こんな役立たずな脚本ながら主演のアニヤ・テイラー=ジョイが安定の大活躍をしていて、孤軍奮闘の戦いを見せてくれる部分でなんとか救われるんですが、それにしてもなんだよあの歯切れのよくないラストは。どちらにしろオレ、戦おうとするヤツのいない話って基本的に嫌いなんですよね。